『時空犯』潮谷験 SF本格ミステリのあらすじと感想

 

感想 ★★★☆☆

メフィスト受賞作家によるタイムループミステリー。面白かったのは面白かったのですが、期待を超えるほどではなかったです。

ループものとしてもミステリとしても、違和感を覚えるような矛盾はなかったし、その辺りは良く出来ていました。

ただ、突き抜けるような面白さや意外性は感じなかった。破綻なくまとまっている反面、強く印象に残るようなインパクトに欠けると思います。

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あらすじ

私立探偵の姫崎智弘の元へ成功報酬1000万の依頼が舞い込んだ。依頼主は世界的に有名な情報工学の博士。胡散臭く思いながらも、姫崎は報酬に惹かれ説明会へ向かう。そこには他にも何人かいて、中には姫崎の知り合いもいた。

博士からの依頼内容は、タイムループの原因を突き止めて欲しいという奇想天外なものだった。博士によると6月1日が1000回近く繰り返されているというのだ。

俄には信じられない話だったが、博士が開発したタイムリープを認識できる薬を飲むと、本当に6月1日が繰り返される。博士の話が真実と知ったメンバー達は、タイムリープの謎を解こうと意気込むのだった。

しかしその矢先、博士の他殺体が発見される。さらに同じ日が繰り返されるたび、新たな殺人が発生する。犯人は間違いなくこのメンバーの中にいる。はたして誰が何のために殺したのか。そしてタイムリープの原因とは。

 

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感想

個人的にループものは大好きだし、さらに本格ミステリということで、どちらも好きな僕にとっては願ったり叶ったりの設定。

それでかなり期待値が上がってしまったところもあって、大満足できるほどではなかった。とはいえ、普通に楽しめる良作だと思う。

まずミステリとして見るとフーダニットものです。限られたメンバーの中で誰が犯人なのか、それが焦点となります。不可能状況ではないし、何かトリックが使われているわけでもありません。純粋な犯人当て。

ループするたびに新たな殺人が起きる設定はユニークだし、だからこそ、ミステリとしてもっと凄い飛躍が欲しいと、贅沢な欲求が出てしまいました。

おそらく、普段本格を読んでいる人はそう思ってしまうんじゃないでしょうか。

本格ミステリとしてみると、シンプル過ぎて呆気なく感じてしまいます。まあ、本書を読む前に『名探偵のいけにえ』を読んだのも良くなかった(笑)。これは複雑過ぎて、本書が余計にシンプルに感じてしまう。

ループものとして見ると、もちろん繰り返す原因が一番気になるところ。これに関しては謎の存在が登場し、この存在についてはSF的です。

SF門外漢の僕からするとハードSF味を感じました。それでも何となく理解出来ます。専門的な理論がバンバン出てくるとかではない。

肝心のループの原因というか理由の方は、問題なく理解出来ます。その点については分かり易いので心配なし。僕みたいにハードSFに明るくなく、ただループものが好きな人間が楽しめる作りになっています。

この話はもう一つ恋愛要素もあって、それについては好感が持てます。全体のストーリーも含め読後感がいい。

ただ犯人の処遇について、個人的には気になりました。いくらループものといえど、あれだけのことをしておいてこれでいいのかと。登場人物全員がこれに納得しているのも変な話だと思う。この扱いだけ共感できませんでした。

 

あとがき

登場人物に好感は持てるし、基本的には爽やかでいい話だと思う。本当の意味で悪人というのは出てきません。

大絶賛するほどの凄さはないながら、ポイントをしっかり押さえた良作でした。ループものが好きな方におすすめです。

 

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