感想 ★★★★☆
鮎川哲也賞を受賞した著者のデビュー作。鮎川賞なのでもちろん本格ミステリ。そしてSF作品でもあります。
設定がSFというだけでなく、トリックにも組み込まれていて受賞したのも納得の作品でした。
あらすじ
雑誌記者の加茂は妻の余命が残り少ないと知り、絶望に打ちひしがれていた。そんな時に謎の小さな砂時計を拾う。
『過去を変えれば妻を救うことができる』
砂時計は突然喋りだし、加茂にそう告げるのだった。
砂時計はタイムスリップするための装置で、妻の病気は彼女の先祖である竜泉家の呪いのせいだった。
竜泉家では過去に連続殺人が発生し、未解決になっている。その時に発生した土砂崩れによって、事件のあった屋敷が飲み込まれ、禄に調査できなかったのだ。
その事件を食い止めれば呪いは解けるという。何としてでも妻を救いたい加茂は、2018年から1960年にタイプスリップする。リミットは土砂崩れが起きるまでの四日間。
はたして加茂は事件を止められるのか、そして妻を救うことができるのか――
感想
基本は山奥の屋敷が舞台のクローズドサークルもの。もちろん外部との連絡も絶たれます。いわゆる陸の孤島ですね。
そんな状況に未来人がタイムスリップするのが面白い。記者の加茂はかつて竜泉家の惨劇の記事を書いており、事件の詳細を把握している。
その知識を活かして事件の阻止を目論みます。でも細かいところで齟齬が起きて、違う展開を見せるのが面白い。
事件の方はバラバラ殺人、密室殺人など不可能犯罪ばかり。本格好きとしては興味を惹かれる状況です。
そしてトリックについては、SF設定を使ったものと普通のもの、両方あったのが良かった。
どちらも無理がなく納得できるトリック。特にSFの方がユニークでした。SFの設定を活かした予想外の仕掛けで、楽しませてくれます。
それだけでなく、解決編に一捻り加えてあって、読者を騙してやろうという気概が伝わってきました。
おそらくここまでやらないと鮎川哲也賞は取れないんでしょうね。
ただ、竜泉家の人物関係がちょっと煩雑ですね。理解するのに時間が掛かります。何せ子供だけじゃなく、ひ孫まで出てきますから。
登場人物表があるとはいえ、幅が広すぎて理解しづらい。そこが難点ですね。
あとがき
SFという特殊な設定を、ちゃんと活かした本格ミステリで満足でした。後味が良いのもポイントが高い。爽やかで好感が持てます。これから要注目の作家さんですね。


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