感想 ★★★★★
法月綸太郎シリーズの短編集で、七編が収録されています。粒ぞろいで堪能しました。短編集の場合、今一つの話もあるものですが、どの話もそれぞれ良さがあった面白かったです。
有名な『死刑囚パズル』を目当てに読んだのですが、他の作品もクオリティが高くて嬉しい発見。短編ミステリが好きな人は満足できるに違いありません。
あらすじと感想
『死刑囚パズル』
死刑執行を直前に控えた死刑囚が殺された。あと数分で死ぬ運命にある囚人を、なぜわざわざ殺す必要があったのか。史上まれにみる特殊な事件だけに、捜査は極秘裏に進められる。そこで白羽の矢がたったのが警察と親交のある法月綸太郎。
彼は今までにこういった難事件の数々を解決へと導いてきた。今回もその推理力を発揮して事件の謎を解くことができるのか。
まず謎が魅力的ですよね。普通に考えると死刑囚を殺す理由があるとは思えない。かなり興味を惹かれます。だから設定としては申し分ないと思います。
犯人特定の方法は、本格ミステリらしい見事な論理。関係者一同の前で推理を展開し、じわじわと容疑者を絞っていく辺りでは興奮を覚えます。
方法についても動機についても納得でき、よく作り込まれた傑作でした。
『黒衣の家』
法月綸太郎の親戚にあたる当麻家の主が亡くなった。その葬儀の席で激しく言い争う当麻親子。主を失った妻佐代と、その息子克樹は昔から喧嘩が絶えない。やがて佐代が毒殺され、その容疑は孫の澄雄に向けられるのだが……。
個人的にはとても好きな作品。こういう何とも言えない、切なくて苦しいラストは印象に残りました。
『カニバリズム小論』
恋人を殺して食べた男が逮捕された。法月はその事件についての意見を聞くために、大学時代からの友人の元を訪れる。この手の事件に詳しい友人と議論を交わし、男が恋人を殺して食べた理由を探る。
カニバリズムについての様々な事例を知ることができます。肝心の理由ですが……、衝撃の理由とだけ言っておきます。驚くべき考え方です。後味はよくないです。
『切り裂き魔』『緑の扉は危険』『土曜日の本』『過ぎにし薔薇は……』
この四遍は図書館を舞台にした作品。司書の穂波に不思議な出来事の話を聞かされ、法月がその謎を調査します。連作短編のような感じですね。
ほのぼのとした雰囲気で、ジャンルでいえば日常の謎の部類に入ります。どの作品も一定の質を保っていて楽しめます。
特に『緑の扉は危険』のトリックがユニークで印象に残りました。
あとがき
ミステリの醍醐味を味わえる短編集でした。様々なテイストでありながら、そのどれもが高クオリティな希有な1冊。短編ミステリをお探しの方、おすすめです。
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