『でぃすぺる』今村昌弘 ジュブナイル×ホラーミ ステリーの感想 ネタバレあり 

 

感想 ★★★★☆

小学生3人が七不思議の謎に挑むホラーミステリー。思っていたのとちょっと違う部分があったものの、楽しく読むことが出来ました。

設定としてはかなり好きなタイプ。

ホラーと言っても怖さはなくてミステリが強め。オカルトを題材とした連作短編ミステリといったところ。

徐々に謎が明らかになるのを楽しむ作品です。

3人のキャラにも共感できて、ジュブナイル的な良さもありました。

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あらすじ

オカルト好きの小学六年生・木島悠介は、普段から心霊、都市伝説、UFOなどの情報を集めている。そんな彼に、同級生の波多野沙月が地元の七不思議について訪ねる。

成績優秀で委員長も務める彼女は、オカルト否定派だったはず。そんな彼女がなぜ七不思議に興味を持つのか。

詳しく話を聞くと、彼女が尊敬する従姉の死と関連があるとのこと。従姉の殺人事件は未解決となっており、七不思議を残して死んでいた。

これが解決への糸口になると沙月は信じていた。

クラスの役割で壁新聞を作ることなっていた悠介と沙月は、この七不思議を調査し、記事を書くことに決める。そこへ転校生の畑美奈も加わり、各怪談について詳しく調べ始める。

最初は順調だったものの、様々な妨害にあい、予想外の事態に巻き込まれていく。

七不思議に隠された謎とは? 従姉を殺害した犯人とは? 幼い探偵3人組は、最後に想像を絶する真相に辿り着くのだった――。

 

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感想

怪談を1つ調査するごとに新たな展開を見せ、最後に従姉の事件の真相が明らかとなります。

連作短編みたいな構成で、最後にそれぞれの謎が収斂する形は好きなので、読んでいて楽しかった。

七不思議の怪談自体も面白く、しっかり作り込まれています。

『Sトンネルの同乗者』、『永遠の命研究所』、『三笹峠の首あり地蔵』、『自殺ダムの子供』、『山姥村』、『井戸の家』。

タイトルもそれっぽいですし、内容も怪談らしさがある。さらにそこに本格ミステリ的な謎を加えており、技巧が懲らされています。

ちょっと冷やっとする話だし、この怪談関連は期待通りで申し分ないですね。怪談と絡めた各話の謎解きについても良く出来てた。

本作は特にキャラがよかったです。陽キャでも陰キャでもないオカルト好きの主人公。頭が良くて勝ち気な沙月、感情を表に出すのが苦手な美奈。

どこか飄々とした主人公と、悩みを持つヒロイン2人。それぞれが交流を通して成長する様は読んでいて心地良い。読後感もいいです。

ジュブナイル小説にピッタリのキャラ設定だった思う。

思っていたのとちょっと違ったのは、話がとても壮大だった点。

小学生たちの話だし、もっと内輪な感じというか、小学生ゆえの小さな世界の冒険、みたいな感じを予想していたのです。

しかしながら、陰謀小説かと思うほどの巨大さがあって、そこはちょっと面食らいました。これによりジュブナイル感がほんの少し薄れてしまったかな、と個人的には思います。

子供らしからぬ頭脳を持ってなきゃダメだし、途中から年相応に見えなくなる時もあった。

まあ、物語的にこれは仕方ないし、全然問題ないレベルなんですけどね。

そして最後のオチについてですが……。これは賛否が分かれでしょうね……。

僕も一瞬「え?」と思いましたが、すぐにこれもアリかと納得しました(※これについてはネタバレにて)。

 

あとがき

ホラーとして怖いわけではないし、ミステリとして凄いトリックが使われているわけでもないので、大ヒットとはならなかったのでしょう。

でも僕は好きなタイプです。思っていたのとちょっと違う部分はあったものの、望んでいた通りのテイストで満足。

僕と同じようにオカルト、ジュブナイルが好きな人はきっと気に入ると思う。

 

 

ネタバレ

※以下、オチについてのネタバレがあるので、未読の方は注意!

 

ラストで物語の肝である、沙月の従姉を殺した犯人が明かされます。

これがまさか化け物の仕業とは驚きました。それまでも化け物の存在は臭わせていたものの、犯人をそうするとは思っていなかった。

オカルトものといっても、従姉の事件についてはちゃんとミステリ的な解決をするんだろうと。

さて、いったいどんなトリックを使ったのかと、そこに興味を惹かれていたので、最初は拍子抜けしてしまった。

けれどよくよく考えてみると、ちゃんと論理的に化け物の仕業と導き出しています。

オチを見た瞬間は、殊能将之の某作品を想起しましたが、それみたいに唐突でありません。ちゃんと論理があっての化け物。

もしかすると本書は実験だったのかもしれませんね。

ホラーミステリーで事件については人間によるトリックだと、ありきたりというか、定番といえる。

その先入観を利用した叙述トリック的な……。

〝屍人荘シリーズ〟で斬新な設定を生み出した作者らしいと言えるかもしれません。

犯人としてふさわしい人物も出てきていないし、むしろこれしかないと納得しました。

あのままなずての会の仕業としていたら、それこそ安っぽい陰謀小説のようで、物語としての良さが消えていたでしょう。

なので僕は化け物が犯人でもアリだと思いました。

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