感想 ★★★★★
探偵の法月綸太郎が活躍する長編ミステリで、数々の賞を受賞しました。ミステリとしても一つの物語としても良く出来ていました。
内容は重いです。
あらすじ
有名な彫刻家の遺作となる石膏像の首が、何者かに切断され持ち去られた。
この石膏像は彫刻家の娘をモチーフにしているため、彼女への殺害予告ではないかとの憶測が飛ぶ。
彼女の身を案じた叔父は知己である名探偵、法月綸太郎に捜査を依頼する。
感想
序盤はゆったりと進み、中盤になってから本当の意味で物語が動き出します。伏線はいたるところに張られており、結末でちゃんと回収されます。その辺の力量は流石。
中盤で急展開を迎えますが、それ以外は終始たんたんと進んで行きます。起伏は少ないながら最後まで飽きずに読めて、とても丁寧に作られている印象を受けました。
この作品で作者は悲劇を描きたかったのかな、と思いました。最後に明らかとなる結末には、カタルシスを感じる反面、やるせないほど悲しい気持ちにもなります。
やるせなさ、葛藤をもたらすことによって、ミステリでありながら文学の香りを感じられるようにしたかったのではないでしょうか。エンタメ的な起伏を少なくしているのも、そのためかと思いました。
巻末にある対談で、著者である法月綸太郎が本作について語っていて面白かったです。
僕の考えていたこととは少し違ったけれど、なぜ序盤で事件を起こさなかったのか、何を意図して書かれたのかがわかってなるほどと思った。すべてにちゃんと理由があったのだ。
こんな風に著者が自作について語っているのを、同じ本で読めるのは珍しい。普通は検索したり他の本を漁ったりしないと読めないですもんね。そもそも語ってなかったりするし、
そんな中、詳しい内容を覚えているうちに読めるのはありがたいですね。
あとがき
文庫で500ページを超える長い作品ながら、読んで後悔することはありません。本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい！」で一位に輝いたのも納得。
ただ内容は重いしきついので、好みはわかれるかもしれません。
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