『開かせていただき光栄です』皆川博子 あらすじと感想

赤いバラ

感想 ★★★★★

八十歳を超えるミステリ作家・皆川博子御大の長編ミステリ小説。2011年には本格ミステリ大賞を受賞しています。

皆川博子の衰えることを知らない創作意欲と、長大な作品を書き上げる精神力に敬服しました。

物語の内容にマッチした装丁も美しい。目を引く濃厚なワインレッドの背景に金の文様、そして神秘的な少年のイラスト。是非とも本棚に収めたくなる1冊。

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あらすじ

物語の舞台は18世紀のロンドン。登場人物は全員イギリス人です。解剖教室を営むダニエル・バートンと、その弟子五人が主な登場人物。

冒頭部分でいきなり解剖シーンが出てきます。ダニエルたちが解剖に取り組んでいると、今でいうところの警察官が闖入してきて、弟子たちは慌てて解剖していた死体を隠す。

警察官が去ってから隠した死体を取り出すと、なぜか手足の切断された死体と入れ替わっていて、さらには顔のつぶされた死体まで新たに登場して……という風に次々とミステリとして魅力的な謎が提示されます。

そして、バートンたちとは違うもう一つの話も同時に進行していく。

こちらの主人公はネイサン・カレンという少年で、詩人になるのを夢見て田舎からロンドンへと上京してくる。

貴族の令嬢との恋、政治的な暴動などを体験し、さらには、悪徳な人物に騙されて純朴なネイサンは悲劇的な状況に陥っていきます。

この二つの話が見事なバランスで混じりあい、濃密で味わい深い作品に仕上がっています。中盤以降も謎めいた事件が起き、最後まで飽きさせません。

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感想

横文字の名前、しかも多数の人物が次々と現れるので、最初は少し混乱しました。でも読み進めるうちにちゃんと誰が誰であるか理解できました。扉部分に登場人物表がついているのはありがたい措置。

ストーリーや構成を楽しめるのはもちろん、18世紀のロンドンを描いた歴史小説としても楽しめました。当時の生活感や空気感などが、リアルに描写されているのです。

中でも当時の解剖学に関する知識は、たいへん興味深かった。そういう話に興味があるミステリ好きは多いと思うので、おすすめです。

18世紀といえば、フランスで人権などが叫ばれ始めた時期。当時のロンドンも一般市民、とりわけ多くの貧しい人たちには、人権など存在しなかったと思われる。

川を漁ったり、犬の糞を集めて生活している人たちのことが、小説内で語られています。いろいろと勉強になることが多かった。

もし、自分が突然こんな世界に放り出されたら、おさらく一週間も生きていけないでしょうね。パソコンが故障して三日使えなかっただけでも、日常に物足りなさを感じてしまうくらいだから。

あとがき

ミステリとしてもそれ以外の部分でも楽しめたので、とても満足感の高い作品でした。ただ、謎解きという意味においては、そこまで驚嘆するものではなかった。

結末は18世紀でないと成立しませんが、その時代設定を生かした上手い終わらせ方をしています。

日常を忘れて物語の世界に没頭できる優れた小説。おすすめです。

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