ホラー小説感想『そのケータイはXXで』上甲宣之      

感想 ★★★☆☆


『このミステリーがすごい大賞』で話題となり出版されたホラー作品。

この賞はミステリと冠していますが、募集している作品の幅は広く、ミステリとしての出来よりも面白さを重視したエンタメ賞といったところ。

あらすじ読んで興味を惹かれたので読んでみました。

スポンサーリンク

あらすじ

旅行で訪れた山奥の温泉地で、女子大生の二人が恐怖の体験をする。その地にある村では生け贄の風習があり、〝生き神〟を必要としていた。

生き神にされると片目、片腕、片脚を奪われ、座敷牢に一生監禁されてしまう。そのターゲットに女子大生の二人が選ばれたのだ。

次々襲いかかってくる村人たちから、二人は無事脱出できるのか。頼りになるのはケータイのみ。今、決死の脱出劇が幕をあける!

スポンサーリンク

設定

――押入れから響く無機質な着信音。そこには薄汚れた携帯電話があった。主人公は恐る恐る電話に出る。受話器からとぎれとぎれ聴こえてくる男の声。

「そこから逃げろ。脚を切り落とされるぞ!」

こんな具合で物語は始まります。この導入の仕方は上手いですね。まず序盤にひとつ山場を持ってくる、ハリウッド映画と同じ手法。

たまたま書店に行って気になる本があったとする。そんな時、最初の部分だけ立ち読みしてみる人は多いと思う。

本書を手にしてパラパラとページを繰ったならば、この魅力的な序盤に購買意欲を刺激されるでしょう。

女子大生のしよりと愛子が宿泊に訪れたのは、山奥にある温泉旅館。

ケーブルカーに乗り山を越えて来たその地、阿鹿理村はなんともいかがわしい雰囲気に満ちています。あしかり=足刈りを阿鹿理としているのも、土俗ホラーらしくて良い。

周囲から隔絶されているがゆえに、村人は閉鎖的で愛想が悪い。よそ者を嫌う廃れ切った寒村といった具合。

村に伝わる酸鼻を極める因習。これがまた怖い。片目、片手、片脚を切り落とし生き神を作ることによって、村を災禍から守るというのです。

生き神にされると死ぬまで牢獄に幽閉され、外にでることはかなわない。

その生き神に選ばれたのを察知したしよりは、押し入れで発見した携帯電話を頼りに村からの脱出を試みます。

まわりは敵だらけ。頼りになるのは携帯電話の先にいる人物のみ。しかし、その人物は本当に味方なのか?

疑心暗鬼に陥るしより。はたして無事村から脱出することができるのか。

このように設定は魅力的で、ちゃんとエンタメホラーしてます。

 

感想

やはり田舎のこういう土俗的なものを扱った話は怖い。本作もそれをうまく利用しハラハラドキドキさせてくれます。

しかしながら、残念に思う部分がいくつかありました。

しよりと愛子の視点が変化する三章仕立てになっているのですが、二章の部分が冗長なのです。アクションシーンが長すぎてぐだぐだになっています。

思いきったことを言ってしまえば、この章は無い方がいい。

せっかくスピード感があって恐怖を煽られているのに、この章で勢いが止まってしまう。愛子の話は無くても成立するし、書くとしてももっと違うやり方ができたはず。

村に関することだけに焦点を絞ったほうが恐怖感は際立つし、もっとスリムで完成度の高い物語に仕上がっていました。もったいない。

批評や感想サイトなどを覗いてみると、多くの批判が散見される結末部分。

確かに結末での主人公の価値観には、読んだ当初僕も嫌悪感を覚えました。人格が破綻したのかと思ったほど。

でも、最後の最後でまともな価値観へと変わっているのが窺えるので、無理やり納得することはできました。

この作品はやはり二章に瑕疵があると思う。二章を見直しブラッシュアップすればもっといい作品になっていたはずです。

設定、筋立てはノンストップホラーで面白いのに、もったいないですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました