『白い部屋で月の歌を』朱川湊人 あらすじと感想ネタバレあり

石

感想 ★★★★★

本書には『白い部屋で月の歌を』と『鉄柱(クロガネノミハシラ)』の二つが収められています。

『白い部屋で月の歌を』はホラー小説大賞の短編賞を受賞した作品。幻想的な雰囲気で完成度が高かったです。『鉄柱』は死について考えさせられる話で、ホラーと言うより文学的な作品。

ホラ大を受賞した『白い部屋で月の歌を』目当てで読んだのですが、『鉄柱』がとても印象的でした。『白い部屋で月の歌を』は星三つで『鉄柱』は星五つ。

印象に残った『鉄柱』についての感想を書きたいと思います。

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あらすじ

会社員の雅彦は都会にある本社から田舎の営業所へと左遷された。働き盛りの三十二歳でそんな場所に追いやられ、悔しさを感じていたが、妻の晶子と過ごす時間が増えて田舎暮らしも悪くないと思うようになった。

ある日、雅彦はトレーニングに使っていた丘の上の広場で、首吊り死体を発見する。何のためにあるか不明だった黒い鉄柱に、縄をかけて死んでいたのである。

その出来事をきっかけに、雅彦は自分たちの住む村の秘密を知るのだった。

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ネタバレあり感想

読みながらいろいろ考えてしまって、なかなか読み進めることができませんでした。自分の過去を振り返って、様々な出来事を思い出しました。人生について考えさせられるのは間違いありません。

これ以降ネタバレがあるので注意して下さい。

広場にあった鉄柱はミハシラと呼ばれており、人生に満足した人が、自殺するために設置されていたのです。

村には「満足死」という奇妙な風習があって、村人たちは人生の絶頂期に幸せのまま死にたいという願望を持っていました。

雅彦はその思想に納得できないものの否定もできませんでした。僕も雅彦と同じですね。幸せな時に幸せなまま死にたいというのは、分からないでもない。完全に同意は出来ないけれど、理解はできます。

全否定できないだけに、モヤモヤしてしまいますね。

それから田舎暮らしにも慣れ、すべてが上手くいき始めていた雅彦に、予想外の現実が突きつけられ、ます。妻の晶子が、ミハシラを使って自殺してしまうのです。

その後、雅彦は一人さみしく生活しながら、常に自分に問いかけます。今日もまだ生きるのかと。

人生の絶頂期を迎えていて、もし仮に、この先不幸しかないとわかっていたら、自分はどうするだろう。幼い頃からそんな風習の中で暮らしていたら、僕もやってしまうかもしれません。

物語の中盤で満足死をする売れっ子バンドマンの気持ちがわかるような気がしました。

あとがき

本格ミステリやホラーを読んでいると、閉鎖的な村の因習話はよく出てきます。それらの場合は大抵、前時代的な有り得ないものですが、この作品はまったくの別物で。安楽死や尊厳死にも近しい価値観で興味深い。

ホラー小説というより純文学ですね。人生についていろいろ考えさせられました。
 

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