『眼中の悪魔<本格篇>』山田風太郎 あらすじと感想 

ドクロ

感想 ★★★★☆

忍法帖などの時代小説で有名な、山田風太郎のミステリ傑作選。短編九作と長編一作が収められている大変お得な一冊。

収録作はどれもさすがの出来栄えで、著者の博識さと懐の深さが窺えます。

ただ、本格篇と銘打たれていますが、謎解きに主眼をおいた本格ミステリとは異なります。中にはそういう作品もあるけれど、ロジックやトリックを重視した本格ミステリとは違うので、そこは注意です。

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あらすじと感想

『眼中の悪魔』

物語の内容を端的に、そして的確に表現したタイトルが秀逸。夫婦の間で起きた悲劇を書簡形式で語っています。

タイトルに眼中とあるように、眼に関するトリック的なものがあります。京極夏彦の某作品や、某医療ミステリでも眼についてのトリックがありますが、山田風太郎は医大生だったこともあり説得力がありました。

『虚像淫楽』 

サディストやマゾヒストが登場する話。真相を聞いて妙に納得すると同時に恐怖を感じた。

『厨子家の悪霊』

厨子家で起こる殺人事件の話。本書の中で最も本格ミステリらしい設定で、横溝正史のようなおどろおどろしい雰囲気があります。

雪に残った足跡や、死体のそばに残された仮面など、ミステリを読んでいればたびたびお目にかかる謎が出て来ます。そして終盤では畳みかけるようなドンデン返しが待っています。

余談だけれど、この話に登場するある人物を見て、『金田一少年の事件簿』の【飛騨からくり屋敷殺人事件】に登場する某キャラクターを思い出しました。もしかしたら、この小説から着想を得たのか、と思わなくもない。

『笛を吹く犯罪』

一人の女を巡って二人の男が対立している。男の内の一人が、一計を案じて女の気持ちを確かめようとする。そんな時一つの死体が発見される。

『死者の呼び声』

ある男と結婚を決めた女の元へ、手紙が送られてくる。そこには探偵小説のような物語が綴られていた。主人公の元へ死んだ妻から手紙が来るという、何とも奇妙な内容だった。 

『墓掘人』

妻の不倫相手を殺してしまった夫。罪の意識に苛まれ、自殺を図ったその夫は、親友に電話して最後の頼み事をする。妊娠した妻の子が誰の子か探ってくれというのだ。親友はその願いを聞き入れ、彼の妻へ尋問を始める。

『恋罪』

妻へ暴力を振るっていた男が、密室の中で死んでいるのが発見される。容疑者として妻が逮捕されるも、真相は二転三転する。

『黄色い下宿人』

こちらは海外が舞台の話。シャーロックホームズのパスティーシュ作品。ラストには山田風太郎の稚気が感じられ、クスリとさせられました。

『司祭館の殺人』

喋ることができない男、耳の聞こえない男。眼の見えない女の奇妙は共同生活。二人の男は次第に盲目の女に心を奪われていく。

『誰にも出来る殺人』

古びたアパートの住人たちが巻き起こす悲喜劇。十二号室に入居した住人は、なぜか様々な事件を体験する。殺人、霊体験など奇妙な事件ばかり。そんな彼らが体験するエピソードを、連作短編の形式で綴った長編作品。

コメディのようでもあり、ホラーのようでもあります。最後にはミステリらしい結末が待っていて、非常によくできた面白い話でした。

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あとがき

『誰にも出来る殺人』は別格として、その他で好きだったのは『司祭館の殺人』と『恋罪』。ミステリの出来もさることながら、物語として味わい深かったです。

 本書の収録作は、男と女の愛憎について描かれた話が多いです。 清らかな恋愛ではなく、業の深さや肉欲など、人間の本質的な部分に焦点を当てています。決して上品な話ではない。

その他の特徴としては、病気や手紙がよく出てくることでしょうか。この辺は作者が医大生だったことが関係しているようです。

どの話も、山田風太郎の濃密な文章で綴られていて説得力があります。情景描写は特に上手いとは思わないけれど、心理描写の巧みさは凄いの一言。

人間についての考察が半端ないです。豊富な語彙で的確に表現されており、読んでいて勉強になりました。

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