『佇む人 リリカル短編集』筒井康隆 あらすじと感想

 

感想 ★★★★☆

リリカル短編集と銘打たれた本書には、いろんな読み味の短編が20作収められています。ほんの数ページの掌編から3、40ページくらいのものまで長さも様々。

リリカルとあるように、悲哀や感傷を感じような話が多いといえますかね。そして筒井康隆らしい皮肉が込められた作品もあります。

エログロのイメージも強いですが、本書にその手の話はないので、苦手な人も安心して読むことができます。

20作もあるので中には呆気なさすぎたり、微妙なものもあります。しかしながら、表題作の『佇む人』と『母子像』は別格の出来。他とは一線画します。

とても奇妙で、それでいて悲哀も感じられて、この手の話としては傑作と言っていいでしょう。

今回は本書の中から気になったものをいくつかピックアップして感想を書きたいと思います。

スポンサーリンク

あらすじ

『佇む人』

犬や猫、そして人間をも街路樹化するようになった世界。樹木にされるのは社会批判した人間。道に植えられて以降は、次第に人間性を失っていき、いずれは完全な樹木となる。

主人公は物書きであるにも関わらず、社会批判をすることなく、毒にも薬にもならないような小説を書いて生計を立てていた。
 
そんな彼の妻が密告により樹木化されてしまう。彼は妻が正気を保っているうちに会いに行き、最後の会話を交わす。

 

『母子像』

主人公は家路の途中で見かけた猿の玩具を、息子へのプレゼントとして購入する。特に意味はなく
ただの気まぐれだった。

まだ幼い息子はそれを気に入り、肌身離さず持つようになる。

ある日、主人公が仕事から帰ってくると妻と息子がいなくなっていた。どこかに出かけただけだろうと気にしていなかったが、一向に戻る様子がない。

どこを探しても、警察に捜索願を出しても見つからず、途方に暮れる主人公。そんな時、息子の泣き声を耳にする。

彼はあるエピソードから、二人が消えたのは猿の玩具をせいだと気づく。そして何とかして愛する二人を取り戻そうとするのだが――。

 

スポンサーリンク

感想

今回も何年かぶりの再読なのですが、『佇む人』と『母子像』に関しては内容を覚えていました。やはりそれだけ印象が強かったということでしょう。

それ以外の話についてはまったく何も覚えていませんでした。

でも改めて読んでみると面白いと思う点がいろいろあった。

『ベルト・ウェーの女』の最後の一行にはミステリ的な趣向があったし、ヒーローものアニメのその後を描いたような『わが良き狼』は哀愁たっぷり。

リリカルという意味では本書で一番かもしれません。

SF譚の『白き異邦人』はとても短い話ながら、その延々と旅する姿は『旅のラゴス』に通じる部分がありました。これらの作品は好きでした。

『佇む人』と『母子像』はどちらも独自性があって甲乙つけられませんね。

『佇む人』はとにかくその発想力がすごい。どうやったらこんな設定を思いつくのだろう。まさに奇想といったところ。

ジャンル的にはディストピアになりますかね。反体制派が粛清されるのはお馴染みですが、樹木にされるという奇妙さによって、何とも言えない読み味になっています。

あらすじだけ見ると、救いのない暗い話を想像しそうですが、不思議とそうはなってなくて、シュールでリリカルな話に仕上がっています。

対して『母子像』の方はホラーとして読むことができます。ある意味とても怖い。とても静謐な作品なんですよね。

無音の場所にいると、落ち着かなかったり恐怖を感じることがありますよね。本作はそんな印象です。

猿の玩具の音だったり、子供の泣き声とかあるのに、音がないようなイメージ。とても雰囲気のある作品。

ラストも印象的です。悲哀でもあるし、なんとも言えない怖さも感じます。

 

あとがき

今回こうして読み返してみて思ったのですが、本書は家族について書かれた短編集ともいえます。

『佇む人』、『母子像』は言わずもがな、他の話でも家族がテーマのものが多い。そうじゃなかったとしても、何ならかの形で家族が関わってたりします。

作品数が多いので気に入る作品が見つかると思います。『佇む人』、『母子像』目当てで買うのも
全然ありですね。

 

幻想小説を探しいる人はこんな記事もあります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました