おすすめ幻想・ファンタジー小説15選 短編

gensoteki

短編の幻想小説やファンタジー小説って、なかなか探しにくいと思います。そこで今回は僕が今まで読んできた中で、これは面白い、もっと多くの人に読んでもらいたいと思った幻想・ファンタジー小説を紹介したいと思います。

恐ろしいもの、美しいもの、難解あるいは意味不明? と感じるものまで、いろいろ取り揃えてみました。読んでいる最中や読み終わった後に、不思議な感覚を味わえるのがこの分野の魅力。

ミステリーなどの人気ジャンルと比べると、最近は元気がないですが、もっとおすすめしていきたいジャンルです。

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『夢十夜』 夏目漱石

こんな夢を見た。から始まる10の不思議な夢の話。美しいものから怖いものまで様々で、幻想小説を語る上では欠かせない作品。不思議な感覚を味わうなら、今回紹介した中で本作が一番かもしれません。僕は第一夜と第三夜が好きです。

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『少女架刑』 吉村昭

16歳で亡くなった貧しい家庭の少女が、献体として医療機関に売られる。解剖されて医学生たちの授業材料にされた後、骨になった彼女は母親の元に届けられる。だが、受け取りを拒否され、たくさんの名もなき者たちが眠る納骨堂に収められるのだった。

この物語の特筆すべき点は、亡くなった少女の視点で語られているところ。語り口が乙女チックなので、ただのグロテスクな話になっておらず、不思議な感覚を読む者に与えます。

強く印象に残る独特な作品。特にラストの描写はよく憶えています。

『ねむり姫』 渋澤龍彦

平安時代の京都が舞台。ねむり続ける姫が僧侶と巡礼の旅をしたり、山賊に誘拐されたり、川に流されたりする。はたして彼女の運命は――

年を取らず、ねむり続ける姫というのが魅力的だし、ストーリー展開も面白いです。そして舞台は平安時代の京都。描き手は幻想文学の巨匠、渋澤龍彦。これで幻想的にならないはずがない。日本昔話のような印象を受ける傑作。かなり好きな小説です。

『エロチック街道』 筒井康隆

古風な家が並ぶ見知らぬ田舎町にやってきた男は、その地の名物という温泉洞窟なるものに向かう。この町に来た者は皆、その洞窟を交通手段として利用しているとのこと。何もわからぬまま温泉洞窟に辿り着いた彼は、そこにいた案内の若い女と一緒に温泉を流れ落ちていく。

筒井康隆らしい少々エロチックでユーモラスな話。洞窟がウォータースライダーのようになっていて、そこを女と一緒に流れ落ちていく。風俗とテーマパークを融合させたような施設。

本当にこんな温泉があればさぞ面白いに違いない。さすが短編小説の名手。よくこんな設定を思い付いたものです。

『陽だまりの詩』 乙一

人類がほとんど死滅した世界を生きる孤独な博士は、自分の死期を予感して、遺体を埋葬してもらうためのアンドロイドを作成する。最初は人間の心がわからなかったアンドロイドが、博士と接するうちに徐々に変化していく。

SFファンタジーの作品。退廃的で厭世的で雰囲気よく仕上がっています。驚きも用意されているし、切なさもあって楽しめるストーリー。

『螢沢』 皆川博子

蛍の飛び交う川辺に辿り着いた男が、小さな女の子に案内され古びた一軒家に向かう。そこにいたのは、琴を弾く妖艶な女。彼女と自分の過去について語り合う内、男は意外な真実を知ることになる。

江戸時代が舞台でとにかく情景描写が美しい。幻想的という言葉がピッタリ嵌まる小説です。そしてストーリーも良く練られていて面白い。男と女両方に、こういうところあるよなあ、と思う部分があり感慨深いです。是非読んでもらいたいおすすめの短編。

『かえるくん、東京を救う』 村上春樹

銀行勤めの男が部屋に帰って来ると、かえるくんと名乗る巨大な蛙が待ち構えていた。呆気にとられる男をよそに、地震を起こすみみずくんと闘うために協力してほしいと告げるのだった。

真面目な男とユーモラスなかえるくんとの会話が抜群に面白い。村上作品はファンタジー要素が当たり前のようにあったり、性描写が細かかったり、難解に感じるものもあります。まだ村上作品を読んだことがない人は、短編から入るのも良いと思います。

そういう意味で本作は最適。読み易いし、村上春樹のユーモアというか、会話のセンスを存分に味わえます。文学に詳しくて、些細なことにこだわりのあるかえるくんは、とても魅力的なキャラクターです。

『黙契』 雀野日名子

両親を早くに亡くした主人公は、唯一の肉親である妹を親代わりとなって育て上げた。元気に生活していると思っていた妹が、ある日突然自殺してしまう。とても信じられない彼は、失意の中で妹の最後の言葉を思い出す。――兄ちゃん、私ね、おうぎラーメンが食べたい。

兄弟愛を描いた文学的な作品で、読み終わったあと泣きそうになりました。妹がなぜ死んだのか探るミステリーテイストで進んで行き、途中からは死んだ妹の視点が入り、ホラー的な要素もあります。切なくて悲しくて深みのある作品。胸に迫るものがあります。

『地下街』 中井英夫

妻を亡くした記者の元に、ベテラン奇術師から降霊術を行うと案内が届く。会場にやって来た男は、そこで奇術師の弟子の美少女に魅せられる。意味深な視線を送ってくる彼女を追いかけ、彼は迷宮のような地下をさまよう。

あの澁澤龍彦が、この作品については何も語りたくない、とまで言った作品。主人公の妻は、死ぬ前に目だけで何かを訴えかけていました。その真相が衝撃的だし、最後にもう一つ不思議な現象が起きて、ぞっとさせられます。

『鉄柱』 朱川湊人

都会から田舎に左遷された男は、当初そのことに不満を感じていた。しかし妻と一緒に過ごす時間が増えたし、こんなのんびりした生活も悪くないかと思い始めていた。そんな矢先、男は自分の住む村に、奇妙な風習があることを知る――。

ミハシラという不可解な柱が登場しますが、描いているのは現実にほかなりません。だから幻想とは少し違うかもしれない。死について、人生について、いろいろ考えさせられる深いテーマです。

僕にはこの風習を否定できないところがあって、自分ならどうするだろうと考えてしまいました。小説の醍醐味を味わえる良い短編。

『片腕』 川端康成

ある男が若い女から片腕を借りて、その片腕と語り合いながら一晩過ごす話。

究極のフェチズムというか変態チックなものを感じましたね。これはいったい何なんだというのが初めて読んだ時の感想。僕みたいな凡人には理解できない世界でした。

異常性でいえば今回の中で一番でしょうね。しかしだからこそ、幻想的で耽美に感じるのでしょう。さすがノーベル文学賞を受賞した日本を代表する作家。

『化身』 宮ノ川顕

南国を旅行中の男が、密林にある直径20メートルほどの池に落ちて、そこから出られなくなってしまう。孤独感、空腹、死の恐怖に怯えながらも、何とか生き延びたいと願う彼の身体が、徐々に異形のものへと変貌していく――。

どこにでもいる普通のサラリーマンが、絶望的な状況に置かれて変身して行く様は、進化の過程、あるいは突然変異を見ているようで興味深かったです。情景描写も巧みで、その場にいるような気分になりました。

登場人物が一人だから当然会話文もなく、地の文だけで進行します。それによって閉塞感も出ていましたね。会話がなくても最後まで飽きずに読めました。

こういう設定だと、恐怖を描いたホラー作品になりがちだと思う。実際こんな設定のホラー映画ありますよね。でも本作は状況描写によって、幻想的な作品になっていました。怪作ですね。

『人間華』 山田風太郎

無精子病で子供を残せない医師は、愛する妻の死期が近いことを知り、どうにかして彼女との愛の証を残そうと模索する。そして彼は常軌を逸した方法を思いつくのだった――。

どんな方法を使ってでも、目的を達成しようとする執念が感じられます。その情熱はマッドサイエンティストに近いかもしれません。グロさと美しさが共存する耽美な作品。その情景が目に浮かぶようで、これぞ幻想文学という感じ。

『押絵と旅する男』 江戸川乱歩

汽車の中で男は額縁を持った老紳士と出会う。その額縁の中には、まるで生きているような押絵細工の男女がいた。老紳士は男にこの二人のいきさつを語る。それは何とも不思議な話だった。

江戸川乱歩の有名な作品。乱歩は夢(寝てる時に見る夢)に憧れを抱いていたようですが、それがこの作品によく表れていると思います。彼自身がこの押絵になりたかったのではないでしょうか。

現代は異世界に転生する小説が人気ですが、本作もある意味では異世界転生と呼べるかもしれない。大正ロマンが感じられる幻想小説の傑作です。

『桜の森の満開の下』 坂口安吾

旅人を襲い生活していた山賊は、ある日、都からの美しい旅人を女房にした。その女はなんとも残酷な女で、とんでもないことを要求するのだが、山賊は逆らわず彼女の願いを叶えてやる。

女の要求で山から都に移り住むも、やがて嫌気が差し、女と共に山へ戻る。その頃には、山賊が何よりも恐れる桜が満開に咲き誇っており、その下を通りかかった二人は、幻想の世界に没入するのだった――

幻想小説といえば、真っ先にこの作品が頭に浮かびます。美しい情景で語られる物語は狂気に満ち、最後は何とも言えない虚無感に包まれます。

これほど日本的で美しく恐ろしい話は、他に思い付かないですね。幻想文学の最高峰と言っても過言ではないでしょう。定期的に読みたくなります。

あとがき

1人につき1作品にしましたが、それでもたくさんありすぎてなかなか絞り切れ真選でした。どれも独特の世界を構築していて読み応えは抜群。非日常へと連れて行ってくれます。

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