
感想 ★★★☆☆
SF作家として有名な著者のミステリ小説。連作短編形式でコメディーテイストな作品です。
ドタバタ劇が得意な筒井康隆らしさが発揮されており、読んでいて楽しい。
ただミステリとしてはあまり期待しない方がいいです。
大富豪がお金の力を使って事件を解決に導く。そのユニークな設定や小説としての面白さがあるのであって、トリックや謎解きが面白いわけではないです。
肩の力を抜いて読める手頃な読み物という感じ。コージーミステリが好きな人におすすめです。
あらすじ
『富豪刑事の囮』
五億円強奪事件の犯人が四人に絞られた。犯人はどこかに大金を隠しているはず。その隠し場所を突き止めるため、富豪刑事が四人に接触する。
金持ちの暮らしぶりを見せつけ、様々な誘惑をすれば、犯人は隠し持っている金に手を付けるに違いない。その思惑通り四人はそれぞれ動きを見せる。
『密室の富豪刑事』
密室内で焼死事件が発生。事故ではなく事件と確信し、犯人の目星もついているものの、その方法がわからなかった。
そこで富豪刑事は金の力を使い、事件とそっくり同じ状況を作り被疑者をおびき寄せる。富豪刑事も同じ眼に遭う危険性がある捜査法だがはたして。
『富豪刑事のスティング』
子供の誘拐事件が発生し捜査に当たることになった富豪刑事は、身代金を払えない親に代わって金を用意する。
身代金受け渡し場所に表れた誘拐犯を見て、子供の親は驚きの表情を見せるのだった。
『ホテルの富豪刑事』
対立関係にある二組のヤクザが、ある町で一同に会することになった。一般市民に迷惑をかけないため、富豪刑事の財力を駆使してホテルを貸し切り、そこに全員押し込めることにした。
当然、ホテルのあちこちで諍いがおき、遂には殺人事件まで起きてしまうのだった。
感想
今回久しぶりに再読しました。とても面白かった印象があって、おすすめランキングで紹介もしていたのですが、思っていたほどの面白さはなかったです。
再読のためか古さのためか、「あれ、こんなもんだっけ?」と思ってしまった。
それでもコメディーテイストが好きな人は読んでみる価値ありです。
古さを感じるのは否めませんが、筒井康隆らしい独特なユニークさがあるので、今でも全然読ませます。嵌まる人は嵌まるでしょう。
嫌なキャラは出てこないし、個性の塊みたいな惚けたキャラ造形で読んでいて楽しいです。毎話で繰り広げられる、富豪刑事と祖父のお約束のやり取りにもクスリとさせられます。
そして惚けているのはキャラだけではありません。作者もそうです。
物語の途中でいきなり読者に話しかけてきたりします。確か司馬遼太郎にもそういうのがあったと思います。この時代は割りとこの手法が使われていたのでしょうか。最近の小説ではまず見ないですよね。
ミステリとしては『密室の富豪刑事』でトリックらしいトリックが使われています。難易度は高くないですが、ミステリらしさを味わえる一品。
各話でそれぞれ違うジャンルを扱っていて、飽きさせないようにしているのも読者思いですね。
あとがき
本書はミステリとしてよりも、筒井作品として楽しむものですね。ところどころにらしさが発揮されていて、著者にしか書けない独特な味になっています。


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