ドタバタ短編集『傾いた世界』筒井康隆 あらすじと感想

 

感想 ★★★☆☆

ドタバタ作品を集めた短編集。本書には3・40ページくらいの短編7作が収められています。

中にはこれはドタバタなのかと思うものもありました。

ドタバタといえばコメディのイメージあります。でも本書にはかなりブラックというか凄惨な話もあるので、その変は注意が必要。

ドタバタで一括りにしてますが、内容は笑えるものから胸くそ悪いものまで様々。

個人的に良かったのは『間接話法』、『傾いた世界』、『空飛ぶ表具屋』の三作。

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あらすじ

『間接話法』

マザング星の大使に選ばれた〝おれ〟。マザング星人はヒューマノイド型で生活習慣は地球人と変わらないのだが、一つ大きな問題があった。

マザング星人は会話方法として間接話法を使うのだ。文法的な意味では無く、文字通り間接を鳴らして会話をする。

おれは体のいろんな箇所をポキポキ鳴らして会話を試みるのだが、当然ネイティブのようにはいかず四苦八苦する。

 

『傾いた世界』

湾に浮かぶ人工島マリンシティが2度傾いた。最初は誰も信じなかったが、各地で事故が多発し、多くの住民が犠牲になる。

その傾きは日を追うごとに増し、遂には転覆する。そんな島で巻き起こる住民たちによるドタバタ劇。

 

『空飛ぶ表具屋』

江戸時代、空飛ぶことを夢見た男がいた。もちろん飛行機など無い時代で、飛行方法や理論なども確立されていない。

そんな時代にありながら、鳥の飛び方を参考に自作の翼を作り、空を飛んだ男・浮田幸吉。彼の波瀾万丈の人生に迫る。

 

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感想

『間接話法』はコメディテイストで笑える話。僕も関節を鳴らす癖があって、よく指をポキポキ鳴らしたりしますが、それをこんなお話にしてしまう発想がすごい。

何とかして関節を鳴らそうとする主人公の姿がコミカルで面白い。そして彼はネイティブでないため、発音が悪く間違った意味で伝わったりする。

その内容がまた筒井康隆らしくて笑えます。この奇抜な設定を持て余すことなく、最大限いかした良作です。

『傾いた世界』。地面が2度傾いたらどうなるのか――シミュレーションという意味で面白かった。

たった2度傾いただけでこんなにも事故が多発するのか、住みづらくなるのかと驚かされる。

それから傾斜が増すごとにドンドン酷い状態になり、中盤からはパニック映画染みてきます。

島からの脱出を試みる住民がいたり、それを阻止する勢力が現れたり、崩壊に向かう様が見ていた面白い。

映像化して欲しい作品ですね。というか今まで映像化されていないのが不思議なくらい。

まあ、フェミニズムに対しての皮肉がふんだんに込められているし、ハリウッド並の予算がないと厳しそうではありますが。

『空飛ぶ表具屋』は最初創作だと思っていたのですが、調べてみると実在の人物とのことで驚きました。

不勉強ゆえ浮田幸吉の存在は知りませんでした。

話の間には実際の航空機事故の話も差し込まれ、読み応えがあります。

この短編は毛色の違う話でしたね。ドタバタ感はまったく感じられませんでした。

もっと言うなら筒井康隆って感じもしなかったです。他の作家の作品と言われても納得する。とても真面目な話というか、普通に読み物として面白かった。   

他の作品にも触れておくと、『五郎八航空』はドタバタ感満載。ドタバタという意味ではこの作品が一番ですね。

上手く纏まっていたし面白かったですが、予想通りでもありました。

『最悪の接触』も異星人との接触ものですが、『間接話法』ほどの面白味は感じなかった。

『毟りあい』はかなりブラック。立てこもり犯に妻子を人質にされた男が、その立てこもり犯の妻子を人質にする話。

設定は好きなのですが、やってることが酷くて悪趣味にすら感じた。真面目に読むと胸くそ悪くなる話です。
 
筒井作品にはグロも多くあり、僕も読んではいるのですが、本作は合わなかった。

『のくたり大臣』に関しては特筆することはないですね。

 

あとがき

今回も再読ですが、覚えていたのは『間接話法』と『傾いた世界』二つ。読み終わった後、なぜ他の話を忘れていたのか不思議に思いました。

というのも、他の話にもインパクトが強いものがあったからです。『空飛ぶ表具屋』と『毟りあい』は好き嫌いは別にして印象的でした。

クオリティはどれも高いと思います。

 

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