
感想 ★★★★★
ファンタジー系作品が12編収められた短編集。どの作品も筒井康隆らしい奇抜さがあって、粒ぞろいの短編集です。
幻想小説を探している人におすすめ。
幻想といっても筒井作品はエロやグロも出てきます。描写が美しいとかそういうのとはまたタイプが異なるのでご注意を。
どれも楽しめたのですが『エロチック街道』、『ヨッパ谷への降下』がとくに良かった。
今回も何年かぶりの再読なのですが、半分くらいは覚えていました。印象に残る話が多く、良質な短編集ですね。
↓の記事では幻想小説のおすすめを紹介しています。
あらすじ
『薬菜飯店』
中華料理に目がない主人公が、裏路地にひっそりと佇む店に入る。そこはただの中華料理店ではなく、世にも不思議な店だった。
薬菜の看板通り、そこの料理を食べると体の悪い部分が直ちに治ってしまうのだった。
『エロチック街道』
世間から取り残されたような田舎町にやって来た主人公は、町の名物という温泉洞窟なるものにいく。
そこを使えば山の麓にある大きな町まで行けるとのこと。
洞窟内は温泉になっていて川のように流れている。主人公は案内役の女と共にその流れに乗って移動する。
『九死虫』
死んでも甦ることができる虫の話。八回の死を経験し甦った虫が語る人生観とは。そして人生最後に迎える死とは。
『ヨッパ谷への降下』
主人公夫婦の暮らす村にはヨッパグモと呼ばれるクモが生息していた。村人たちはヨッパグモを有り難がっており、家にヨッパグモの巣があると幸福が訪れると信じていた。
ある日、主人公の妻が吊り橋から転落する。それを聞いた主人公はすぐに仲間と共に吊り橋へ向かい、妻を救出するためザイルを使って谷を降りていく。
その谷はヨッパグモの住処になっており、所かしこに巣が張り巡らされていた。そして谷底には幻想的な世界が広がっているのだった。
感想
筒井康隆の作品を読むたびに思うのですが、やはりその着想が凄いですね。本書ではより一層そう感じます。
他に類を見ないほど奇抜な作品が多い。
『薬菜飯店』はちょっと汚い話ではあるけれども、登場人物たちのやり取りがコミカルで面白い。なんでも某漫画作品にネタをパクられたとかいう噂もあるようです。
僕は読んでないのでわかりませんが、影響を受けるのも頷けるユニークな作品。
『エロチック街道』はこんな場所があるなら行ってみたいと思うような話でした。別にエロ目当てとかではなく(笑)、単純にこの施設が魅力的でした。
山奥の寂れた街の洞窟にこんな温泉があったらさぞ楽しいだろうなと思いました。
川というか流れるプールというか、アトラクションとして面白そう。
それだけでなく街の寂れた感じとかも、何とも言えない雰囲気、空気感があって良かった。郷愁を感じさせますね。
ただ改行がほとんどなくて、今の小説と比べると読みづらさはあります。
『九死虫』は設定のユニークさもさることながら、それ以外にも良さがあった。
死を経験しているからこそ死が怖いとか、人間が一度しか死を経験できないのは逆に幸運だみたいな描写があって、なるほどと思わせてくれます。
さずが九回生きてるだけあります。
そして表題作の『ヨッパ谷への降下』。これは正当な幻想小説という感じ。かなり好きな話。幻想的に感じるシーンもあってよかった。
妻のキャラが立ってるし、誰も不幸にならない。エログロもないので、クモが苦手な人以外にはおすすめですね。
正統派の良い幻想小説でした。川端康成文学賞受賞を受賞したのも納得です。
その他の作品も良質でした。各作品それぞれに固有の良さあって、つまらないと思うものが一つもなかった。
12作もあってこれはなかなか珍しいと思う。
『秒読み』は『時をかける少女』とはまた違ったタイムスリップもので面白かったし、『家』は海に浮かぶ巨大な家という設定が魅力的だった。
それ以外の作品は日常の中のちょっとした幻想みたいな感じで、こういうのが好きな人もいると思う。
あとがき
読み応えのある短編集でした。着想とか設定とかは今読んでも全然面白いです。
ただ古い作品なのもあって、若干読みづらさを感じる作品もあります。
セリフや改行がほとんどなく、文字がびっしり詰まっていたりします。
それさえ気にならなければ良い幻想ファンタジー短編集です。



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