感想 ★★★☆☆
おそらく現代のミステリ作家で一番有名な、東野圭吾のデビュー作。本作は江戸川乱歩賞を受賞しています。
女子高を舞台にした物語で、密室トリックなどが出てくるバリバリの本格ミステリ。ストーリーにはそれほど興奮しなかったけれど、密室トリックは秀逸でした。
あらすじ
数学教師でアーチェリー部顧問の主人公は、何者かに命を狙われていた。
見えない殺人者の影に怯えながら日常を送っていたある日、校内で事件が起きる。密室状態の更衣室で男性教諭が毒物で殺害されていたのだ。
さらに第二の殺人事件が起きて謎は深まるばかり。容疑者と思われる人物はアリバイがあるし、動機がまったくわからない。はたして犯人は何者なのか――
感想
東野圭吾は人間ドラマに重きを置いた作品が多く、様々なタイプの話を書く幅の広い作家、というイメージが僕の中にあります。
東野作品で僕が読んでいるのは、どんでん返しがあると有名なものばかりで、それ以外はほとんど読んでいません。
『仮面山荘殺人事件』や『ゲームの名は誘拐』は面白かったですね。
ただ近年の作品は、トリックの斬新さや巧妙さを感じられるタイプではない気がして、まったく読んでいません。
さて、デビュー作である本作は密室トリックに挑んだ意欲的な作品。そのトリックに驚かされました。
ミスディレクション自体も良く出来ているのに、それを捨てた判断が凄いし、真相はさらに意外性のあるトリックで唸り声をあげてしまった。
最後に意外な結末が用意されているんですが、それは途中でなんとなく気付きました。
主人公に関する記述で、どうしてこんなことを書いたのだろう、ない方が好感が持てるのに、と思ったし、伏線が多くあったから何かあるだろうと、予想がついたのです。
主人公は男性教諭ですが、アーチェリーに励む部員の様子や、女子高生たちの難しい心などが書かれており、青春ミステリの良さもあります。
主人公と友達のように話す明るいキャプテン、主人公に思いを寄せる不良少女、成績優秀で正義感の強い生徒などが、物語に彩りを加えています。
この年代の考え方というのが、この作品の非常に重要なポイントとなっています。
あとがき
ちゃんと伏線が貼ってあって、ミステリとして面白かったです。文章が簡素で全体的に少し淡白な感じはあるものの、密室トリックが秀逸で満足です。
確か山田風太郎の言葉だったと思いますが、「人間は小さな恥をかくのに耐えかねて、はるかに大きな犠牲をしのぶものだ」という言葉を思い出しましたね。
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