幻想的な短編集『ねむり姫』澁澤龍彦 あらすじと感想

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感想 ★★★★★

童話や日本昔話を思わせる六つの物語を収めた短編集。 時折、著者が読者に語りかけてくるシーンがあって、近年ではあまりみかけないスタイルです。

神秘的なものから怪異なものまで様々な話がそろっていて、粒ぞろいの短編集となっています。

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あらすじ

『ねむり姫』

平安時代の京都が舞台。死んだようにねむり続ける姫を回復させるため、僧侶たちが姫と共に巡礼の旅をしていると、突然山賊に襲われ姫を誘拐されてしまう。

その後、山賊たちは姫を使って宗教団体を立ち上げる。勢力を拡大していくも、やがて山賊たちもお上により解体させられる。はたして眠り続ける姫の運命やいかに。

『狐媚記』

とある将軍の妻が狐の子を産んでしまう。子供はすぐに殺されたものの、妻はたびたびその子の幻影を見るようになる。妻にはもう一人子供がおり、そちらは粗暴な人間へと成長していた。

ある時、その子供が女を連れて妻のもとにやってくる。かつて自分が産んだ狐の子ではないかと、妻は疑いをもつ。

『ぼろんじ』

女のような顔をした侍は、戦争に招集されるのを避けるために、女装をして田舎へと引っ込む。世の中が落ち着きを取り戻すと、再び江戸を目指して旅をする。その最中、彼は温泉宿で自分そっくりの人物を目撃するのだった。

『夢ちがえ』

耳の聞こえない豪族の姫は、ずっと城の望楼へ幽閉されていた。ある時彼女は、地上で舞の練習をしている男に恋をして、彼が夢に出てくるようになる。夢の中では音を聞くことができた。夢と現実が反対ならいいのにと、姫は強く願う。

『画美人』

父親の遺産で勝手気ままに暮らしていた若い侍は、芸術的なものに目がなく、行商人が持ってきた美しい女の絵を購入する。ある夜、画の中の女が現実世界に飛び出してきて――

『きらら姫』

貧乏人だが一流の腕をもった大工の男が、きらら姫なる人物から草庵の修理の依頼を受ける。そこに向かうために彼は、星の船に乗ったり、海中の洞窟を通ったりと、摩訶不思議な体験をするのだった。

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感想

澁澤龍彦といえば、幻想的なものに造詣が深いことで有名ですね。

エッセイやアンソロジーなどで海外の幻想作家の紹介をしたりと、その分野で多大な功績を残しています。

本作はそんな氏の力がいかんなく発揮されていました。不思議で怪奇な物語は魅力に溢れ、時折、著者が顔を出して行う語りも面白いです。

どの作品も楽しんで読めました。

この中で一番好きだったのは『ねむり姫』。年をとらず眠り続ける姫というのがまず魅力的。ストーリーの展開の仕方も意外性があってよかったです。

山賊の頭は姫の腹違いの兄弟で、二人の人生を描いた運命的な話は、神話の一説を読んでいるような幻想的なものでした。

こういう世界観が好きな人は必ず満足するであろう短編集。おすすめです。

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