
感想 ★★★☆☆
覆面作家シリーズの第三弾。二重人格のお嬢様探偵〝千秋さん〟こと新妻千秋と、若手編集者の岡部良介が活躍するシリーズも本書で完結となります。
本書に収められているのは三つの短編。北村薫さんらしいほのぼのとした良いシリーズでした。
あらすじ
『覆面作家と謎の写真』
ニューヨークにいたはずの男が東京ディズニーランドの写真に写っていた、という謎が提示される。トリック自体は珍しいものではなかった。
『覆面作家、目白を呼ぶ』
新人賞を受賞した作家と打ち合わせをするため、岡部は車を走らせる。打ち合わせを終えた帰り、景色を楽しみながら山道を運転していると、前を走っていた車が突然おかしな動きを始まる。
そして谷底へ転落してしまい、運転者は死亡してしまう。不運な事故を目撃した岡部は、そのことを千秋さんに話す。話を聞いた彼女は事故に不審な点を感じて――。
『覆面作家と夢の家』
ドールハウス作りを趣味としている女性ミステリ作家のもとへ、死体の模型つきドールハウスが送られてくる。
送り主は彼女と親交の深い歌人。死体にはダイイングメッセージが残されていて、これは彼からの無邪気な推理問題だった。
その問題を解くために、彼女は千秋さんと岡部に相談。三人は協力してダイイングメッセージの謎に挑む。
感想
本書は完結編なので人間関係に大きな動きがあります。『覆面作家と謎の写真』では、岡部の双子の兄の結婚式から始まります。お相手は前作にも登場した編集者。
そしてシリーズ最終話の『覆面作家と夢の家』で、千秋さんと岡部の関係にも変化が訪れる。どういう結末になるかは、実際に確かめてもらった方がいいでしょう。
表題作のダイイングメッセージは、著者の得意分野がいかされていて洒落ていました。個人的にあまりダイイングメッセージものが好きではないので、「ふうん」という感じでした。
表題作はそれ以外にも小洒落た部分がいくつかありました。最後の千秋さんと岡部の部分もそうだし、ミステリ作家と歌人の行く末を暗示している点もそう。
直接表現するのではなく、序盤に登場させた食用花を使って、読者に忖度させるこのやり方は上手いですね。
情緒があって北村薫さんらしいと思いました。
あとがき
トリックが凄いとか意外な結末とかいうタイプではないですが、シリーズを追いかけてきた人が満足できる作品に仕上がっています。
温かい気持ちにさせてくれる良作。おすすめです。


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