刀城言耶シリーズ 『魔偶の如き齎すもの』三津田信三

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感想 ★★★☆☆

刀城言耶シリーズの最新作となる本作は、四つの短編が収められた短編集です。どの話もあっさりしているというか、長編にみられるような濃密さはなかったです。

単純にページ数が少ないのもあるし、内容についてもそう。ミステリとしてもホラーとしても控え目な印象でした。

『妖服の如き切るもの』

坂の上にある家と、坂の下にある家で殺人事件が発生する。事件が起きたのはほぼ同時刻で、交換殺人の疑いが生じる。両方の事件で使われたのは同じ凶器で、その受け渡し方法が問題になった。
刑事から相談を受けた刀城言耶は、様々な方法を検討する。そしてこの事件には、服にまつわる怪談話が絡んでいると知り、俄然興味を惹かれるのだった。

『巫死(ふし)の如き甦るもの』

戦争から復員して故郷の村に帰ってきた男は、自給自足の生活を始めるようになる。その暮らしに賛同する者が徐々に増え、一つの村と言える規模まで発展する。すると彼らは、村の周囲を塀で囲い外部との接触を断ち、さながら新興宗教のような様相を呈し始める。
そんなある日、強盗事件の犯人がその村へ逃げ込んだとの情報があり、警察が捜査に乗り出す。強盗犯は無事逮捕したものの、教祖の男が行方不明になっていた。教祖はいったいどこへ消えたのか。
教祖の妹が警察のつてを頼って刀城言耶に相談する。話を聞いて興味を惹かれた刀城言耶は、現地調査へ赴き、調べを進めるうちにこの村の異様性に気付く。

行方不明の教祖と一緒に生活していたのは六人の女性信者で、彼女たちはそれぞれ特殊な修行を行っていた。それは、聞かない、喋らない、歩かない、など感覚を制限する苦行だった。そして肝心の教祖は、自分を不死だと信じ、生まれ変わると豪語していた。

そんな異常な村で消えた教祖はいったい何を企んでいたのか、今どこで何をしているのか。刀城言耶が導き出した答えは、世にも奇怪なものだった。

『獣家の如き吸うもの』

戦前と戦後の怪談話の中に似通ったものを発見する。どちらも山奥にひっそりと佇む洋館についてのもので、共通点も多い。場所についての記述や獣の像がいろいろ置いてあるところを見ると、同一の家としか思えないのに、二つの話には決定的な違いがあった。
一つは一階建てでもう一つは二階建てなのだ。はたしてこの違いは何なのか、それとも二つは別の家なのか。怪奇譚に眼がない刀城言耶が、この話の真相を探る。

『魔偶の如き齎すもの』

大学を卒業し、作家として軌道に乗り始めた若き刀城言耶の元に、新興出版社の編集者・祖父江偲が訪れる。初対面となった二人はすぐに打ち解け、怪異譚の話になる。祖父江偲が語ったのは、富と災いを齎す〝魔偶〟なる土偶に関する話で、刀城言耶も興味を惹かれる。
持ち主が手放す前に観に行こうという話になって、二人はそのまま持ち主の屋敷へ赴くことに。行ってみると刑事や骨董屋などの先客が数人いた。なんでもこの屋敷の骨董品を盗賊団が狙っているとか。

妙なタイミングで来てしまった二人だったが、刀城言耶は屋敷の主人と意気投合し、話に夢中になる。その間に他のメンバーは魔偶を見るために、通称・卍堂と呼ばれる変わった造りの蔵に向かい、そこで事件が起きる。

メンバーの一人が蔵の中で殴られ、意識不明の重体に陥っていたのだ。状況を精査すると、蔵は一種の密室状態だったと判明する。
はたして犯人はどんな方法で被害者を襲い、その場から姿を消したのか。刀城言耶は推理を進めながら、己の迂闊さに愕然とするのだった。
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各短編の感想

四編の中でミステリとして唯一面白いと思ったのは、表題作の『魔偶の如き齎すもの』。これにはまんまと騙されてしまいました。謎自体にあまり興味を惹かれなくて、流し読みに近い感じで読んでいたので、真相には驚かされました。
油断していたとはいえ、まったく気付かなかったです。よくよく考えてみれば変なところはいくつかあったのに、気になるほどではなかった。

さすが三津田信三ですね。終盤で様々な推理が展開されるのも、長編のようで面白い。もしこの短編がなかったら、本当に期待外れの一冊になるところでした。

他の三編については、なんとなく真相が予想できました。『妖服の如き切るもの』については、特にどうという事はないですね。三津田作品としてはレベルが低いと感じました。
『巫死の如き甦るもの』の設定は好きなんですが、外部との接触を断った新興宗教、というのは有りがちだし、その真相も有りがちだったので、満足感は得られませんでした。
『獣家の如き吸うもの』が一番シリーズらしさがあります。時を隔てた二つの怪談に、合理的な説明がなされるところなど、シリーズの特徴がよく現れています。

各時代の生活が知れて面白かったし、構成も凝っていました。短編としての質は高いと思います。

ただ残念なのは怖くなかった点ですね。それぞれの話が怪談として怖かったら、もっと感想も変わっていたでしょう。

シリーズの一冊として

刀城言耶シリーズの短編集としてはこれで三冊目となります。二冊目の短編集『生霊の如き重るもの』が学生時代の話だったので、時間軸で見ると本作が二番目に古い作品。

シリーズではお馴染みとなった、担当編集者の祖父江偲と出会う前の話です。

シリーズの特徴として、本格ミステリとホラーの融合がありますが、この短編集はどちらも微妙ですかね。

あっと驚くような謎とトリックはなかったし、怪談話にしても興味を惹かれるほどじゃなかったです。

この短編集をシリーズ内の一冊として見た場合、箸休め的な印象を受けます。それは他の短編集にも言えることですが、その傾向がより強く感じられました。

刀城言耶シリーズの短編に、これは凄いと思えるような話は今のところないですね。このシリーズは長編でこそ、真価を発揮するのだと思う。

時間を掛けて雰囲気を作り上げ、最後に怒濤のどんでん返し。シリーズの特徴となっているこれを、短編でやるのは難しいようのかもしれません。

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