民族学ミステリーシリーズ第二弾『触身仏』北森鴻

rakan

感想 ★★★★☆

民族学がテーマの本格ミステリーシリーズ、通称・蓮丈那智シリーズの第二弾。本作も前作同様、民族学が好きな人間には堪らない一冊になっています。

探偵役の蓮丈那智は大学で教鞭を執る民俗学者で、相棒役の内藤三國は彼女の研究室の助手。このコンビが民族学に関する様々な謎を調査し、その過程で事件に巻き込まれます。

民族学と事件、二つの謎が展開される連作短編集で、民族学に関する豊富な蘊蓄が特徴の本格ミステリーシリーズです。

『秘供養(ひくよう)』

蓮丈那智と内藤三國は山奥にある五百羅漢の調査に乗り出した。その最中に蓮丈にアクシデントが起き調査は中断。それでも蓮丈は答えを得ていた。そして、この五百羅漢の問題を学生たちのレポート課題にしてしまう。

多くの学生たちが的外れな解答をする中、一人の学生が確信をつくような考察を披露し、内藤のみならず蓮丈をも驚かせる。しかしながら、後日その学生が遺体となって発見されるのだった。

『大黒闇(だいこくやみ)』

蓮丈と内藤のもとへ学生から相談が寄せられる。なんでも大学内に怪しげなサークルがあって、新興宗教まがいのことをしているらしい。内藤が探りを入れにサークルを覗くと、是非顧問になってほしいと勧誘される始末。

もちろん内藤にそんな気はなく断るのだが、相手もなかなか引き下がらない。と、そうこうしているうちに、サークル内の学生が死亡してしまう。そして何故か遺体の傍らには、大黒天の仏像が置かれていた。

『死満瓊(しのみつるたま)』

フィールドワークに出掛けた蓮丈那智からの連絡が途絶えた。もしや彼女の身に何かあったのではと、気を揉む内藤たち。それからすぐに蓮丈は発見されるのだが、複雑な状況に陥っていた。彼女が発見された時、側には死体が転がっていたのだ。

『触身仏(しょくしんぶつ)』

即身仏の調査をして欲しいと依頼され、蓮丈と内藤が山奥の村へ行く。実際調べてみると即身仏としては不審な点がいくつかあった。それからしばらくして、依頼者が行方不明になったとの報を受け、二人は再び現地に赴く。そして、かつて村で起きた悲劇と、即身仏の意味が明らかになるのだった。

『御陰講(おかげこう)』

とある地方に伝わる御陰講の伝承を解析すること――蓮丈から内藤にそんな命令が出された。この解答如何によって講義を持てるかどうかが決まるため、彼にとっては己のキャリアがかかった重大な局面だ。そんな中、大学内に置ける人間関係の問題も起きて、内藤はますます苦悩するのだった。

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感想

各短編で扱う民族学は興味深いものばかりでした。

『秘供養』は五百羅漢や日本古来の葬制について、『大黒闇』は神仏や日本神話について。『死満瓊』は三種の神器について。『触身仏』は即身仏について。『御陰講』はわらしべ長者などの伝承について。

民族学が好きな人ならどれも楽しんで読めると思います。民族学に詳しくない僕なんかは、蘊蓄にへえとなったし、謎と考察についてはこれが真実ではないかと思わされました。

蓮丈たちが関わる事件の方は、前回同様やはりおまけみたいな印象。驚きやカタルシスを感じられるタイプの話ではありません。でも『触身仏』の結末には意外性を感じました。

それもあって本書の中で一番好きなのは『触身仏』ですかね。それと『秘供養』ではある意味恐怖を感じました。現代で起きた事件が残酷というか、こういう死の状況を想像すると、かなりきついものがありました。

完成度としては『触身仏』、インパクトとしては『秘供養』という感じ。

あとがき

シリーズ二作目も満足感のある一冊でした。民族学に興味がある人は読んで損はないです。最後の『御陰講』で新キャラらしき人が出てきましたが、これからどう絡んでくるのかも気になるところ。シリーズは全五作のようですが、レギュラーメンバーになるのでしょうか。

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