『ばくうどの悪夢』澤村伊智 あらすじと感想

 

感想 ★★★★☆

人気ホラーシリーズ、比嘉姉妹シリーズの六作目。長編では第四弾になります。読んでまず思ったのは、相変わらず女性と子供に厳しいなあと言うこと。それはシリーズを通して一貫していて、ブレないのは良いですね。貫き通す姿勢に作家としての信念を感じます。

ただ、前にも書いたように個人的な好みを言うと、あまり好きなタイプではないです。やはり子供が理不尽な目に遭うのは、読んでいて少々しんどい。ホラーは好きだし、ブレない姿勢には好感が持てますけどね。

タイトルにもあるように今回は夢がテーマの作品。何ともいえない嫌な感じが存分に発揮され、比嘉姉妹と野崎がちゃんと活躍する良作でした。

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あらすじ

東京から地方に引っ越して来た中学一年の〝僕〟は、悪夢にうなされるようになった。現実の体にも謎の痣が出来るようになり、寝るのが怖くなる。

もしも夢の中で殺されたら現実でも死ぬのではないか……。そんな恐怖に苛まれ精神的に追い込まれていく。一人恐怖に震える僕だったが、自分だけでなくクラスメイトも悪夢に悩まされていることが判明する。

それから彼らは、父の友人である野崎と真琴にこの悪夢について相談する。どうやらこの地に伝わる童歌、そして〝ばくうど〟なる化物が関係しているらしいのだが――。

ばくうどについて調べるうち、野崎と真琴、そして子供たちは恐怖の世界へ引きずり込まれて行くのだった。

 

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感想

夢がテーマのホラーと言えば、『エルム街の悪夢』を僕は真っ先に思い浮かべます。人間は寝ないわけに行かず、そこで襲われるなんて堪ったもんじゃないなと、恐怖を覚えたものです。

本書もそんな絶望感を感じられる作品に仕上がっています。エルム街の場合はフレディという分かり易い怪物が襲ってくるわけですが、本書はその点がちょっと違う。不気味な存在が登場したりするものの、そこがちょっと巧妙というか。

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ただ安直に悪夢を見せるだけではないです。ある意味悪夢よりも厄介で、あの琴子でさえも罠に嵌まってしまいます。

本作は作品の性質上、何度も夢オチが繰り返されるので、そこで好みが分かれるかもしれません。くどいと言われればその通りだし、それでページ数が多くなっている部分もあります。

でも夢と現実の区別をつかなくさせるために、キャラと同じ感覚を味わわせるために、意図的にやっているだろうから難しいところですね。

ともかく夢がテーマのホラーとして、いろんな試みをしているのは確かです。夢に纏わる怪異の蘊蓄が豊富なので、蘊蓄好きの人にもおすすめです。

 

ストーリーや構成

ストーリーとしては現代の闇が根幹としてあって、冒頭でいきなり無差別殺傷事件が起きます。産婦人科に包丁を持った犯人が乗り込み、妊婦に襲いかかります。

この描写がかなりきついので要注意。

自分より弱い者、しかも幸せの絶頂にある者を狙う、陰湿で闇の深い事件で胸くそ悪くなります。自暴自棄になった男による犯行で、この事件がいろんな意味でストーリーに影響を与えます。

真琴と野崎は野崎の故郷であるこの地に帰ってきており、幼馴染みで結成された通称〝片桐軍団〟の面々と旧交を深めていました。

そんな折、こんな重大事件が起き、さらに片桐軍団の子供たちが悪夢に襲われているのを知り、怪異とかかわって行くという流れ。

主人公は中学一年の少年で彼を中心に話が進んで行くのですが、真琴と野崎がしっかり活躍するのがよかった。それによってシリーズらしさが感じられます。

人間の暗部を描いた部分も結構あって、これ何を読んでるんだっけ、となる時もあったため、シリーズらしさを感じられる終盤はよかったです。

それにしても、著者は人間関係の嫌な感じを書かせたら本当に上手い。これまでは夫婦や男女間のものが多かったですが、今回は友人や地方の人間関係でそれが発揮されています。

偏見や古い価値観の人物も登場し、こういうちょっとイタイ人物の嫌さ加減はさすがの出来。

それと地方と都会の価値観の違い、SNSが発達したことによる問題点なども描かれており、この辺りは現代の闇がテーマの社会派小説を読んでいるかのようでした。

 

あとがき

個人的にこのシリーズは化物のネーミングに注目しているのですが、〝ぼぎわん〟や〝ずうのめ〟ほどの面白味はなかったです。とても考えられてるとは思うのですが、上記二つほどの発想の意外性はなかった。

比嘉姉妹シリーズでは久々の長編ということで期待されていたと思いますが、その期待に答えられていると思います。僕も満足しました。

ただ、〝ぼぎわん〟や〝ずうのめ〟を超えるほどではなかったですね。これからもシリーズは続いて行くでしょうから楽しみです。

 

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