炭鉱が舞台の本格ミステリ『黒面の狐』三津田信三

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感想 ★★★★☆
表紙の雰囲気からてっきりホラーと思っていたのですが、がっつりミステリでした。それも刀城言耶シリーズに引けを取らないレベルで、最後はどんでん返しの連続。
ただプロレタリアート的な側面があるので、どういう話かある程度知っておいた方がいいかもしれません。
そういう意味で毛色は異なるものの、キャラは刀城言耶を彷彿とさせるし、ミステリの手法はいつも通り。
意外性はそこまでありませんが、連続して起きる事件の数々に矛盾はないし、クオリティは高かったです。
刀城言耶シリーズが好きな人は読んで損はないです。うん、面白かった。
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あらすじ

仕事を辞め放浪の旅に出た物理波矢多(もとろいはやた)は、ふと思い立って炭鉱で働くことにする。炭鉱の仕事は命を落とす危険もある過酷な仕事で、炭坑夫になるのは脛に傷を持つ者ばかりだった。
そんな劣悪な環境で波矢多は住み込みで働き始める。大卒の波矢多を良く思わないチンピラも入れば、世話を焼いてくれる人もいて、次第に仕事にも慣れていく。
そんな折、炭鉱内で崩落事故が起きる。波矢多の同居人が巻き込まれ安否不明の中、密室内で自殺体が発見される。注連縄で首を吊るという奇妙な状況だった。
それをきっかけとして同様の自殺者が相次ぐ。現場で黒面を付けた謎の人物の目撃情報もあり、事件は混迷を極めていく。
迷信深い炭坑夫たちが化物の仕業と恐れる中、波矢多は真相解明に乗り出すのだった。
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設定

物語の舞台は戦後の日本。それで本格ミステリをやるなら、刀城言耶シリーズに加えてもよかったのでは? と最初は思いました。でも読み進めるうちに別にしたのも納得。
最初に書いたようにプロレタリアート的な側面があるので、固定ファンのいる言耶シリーズでやるのは相応しくなかったでしょうね。
冒頭では満州についてや、戦時中の各人の思想などが語られています。そして戦中戦後の炭鉱の歴史についても、詳しく書かれています。具体的には徴用工問題ですね。
どのようにして朝鮮から炭鉱に連れてこられたのか、そこでどんな扱いを受けていたのか、その辺りが詳しく書かれています。この問題が物語の根幹に関わってくるため、読み飛ばすわけにも生きません。

プロレタリア文学のことはよくわかりませんが、虐げられ搾取される徴用工の人たちの悲惨な様子が、結構なページ数で描かれています。そういう意味で刀城言耶シリーズとは異なります。

感想

ミステリとしては、いつもの刀城言耶シリーズと同じです。不可解な事件が次々起きて、最後に論理的に解決されます。解決編はどんでん返しの連続で、推論を披露しては自己否定するというやり方。
なので波矢多が途中から刀城言耶に見えてきます。二人の違いと言えば、怪奇譚に夢中になるか成らないかくらいでしょうか。それ以外に明確な違いはないように感じました。この点がマイナスといばマイナスでしょうか。
肝心のトリックに関しては何の不満もありません。各トリックが小粒といえば小粒だし、犯人の目星もつきます。でも全体を通して見えれば、よく出来ていたと思います。
それに、最後に波矢多があることを見破った理由には唸らされました。この時代ならではとも言える理由で、とても説得力がありました。
その点も含めトータルで考えると、この時代、そして炭鉱という職業を舞台にした
とてもよく出来た小説だと思います。

あとがき

徴用工に関しては一先ず置いといて、特定の職業を掘り下げてミステリをやるのは面白いと思いました。『幽女の如き語る者』もそうですが、歴史を学べて職業小説としても楽しめるので、個人的には大好きです。
続編でも同じく職業にスポットが当てられているようなので、読むのが楽しみ。是非ともこの趣向を続けてほしいものです。

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