
戦後間もない日本を揺るがせた大事件・下山事件。迷宮入りしたこの事件の真相に迫ったノンフィクション作品です。
著者の柴田哲孝氏は、事件に深く関係していた人物のお孫さん。そしてジャーナリストでもあります。
客観的な資料や取材を元にし、さらに親族だからこそ知り得た情報も加わっており、非常に説得力があります。
いったいなぜこの事件は起きたのか、どういう意味があったのか。様々な説が飛び交うほど多くの人を惹き付けています。ミステリ作家の松本清張もその一人で『黒い霧』という作品を発表していますね。
下山事件に興味がある人は読んで損はないと思います。ただ、ある程度事件を知っている人向けですかね。
とりあえず事件の概要を知りたい、という気持ちで読むと逆に混乱するかもしれません。それほど多くの情報が詰め込まれています。
構成について
本当に多岐にわたる情報が書かれています。その時代の情勢、人物、関連する出来事などが色々書かれているため、事件の本筋だけ追いたい人はちょっとしんどいかも知れません。
もちろん、これでも分かり易く要点を絞っているのだと思います。でも僕は事件についての知識がほぼゼロだったので、何度も立ち止まってしまいました。
新しい人物が登場するたびに、その人物の経歴や関与した事件などが説明され、それからまた本筋に戻る――こういう書き方になっています。
さらに参考資料の引用などもたびたび挟まれます。
なので、話があちこちに飛んで流れを把握しづらかった。小説的な書き方になっていないので、仕方ないのかもしれませんね。
ノンフィクションだから、情報を正確に記すことに重点が置かれているようです。
そういう構成なので事件について知識がある人にとっては、最適だと思います。ほんの些細な証言をした者の名前まで、細かく記されています。
小説では間違いなく省略されるであろう、モブキャラにまで名前が付いてる感じ。情報の正確性を徹底している印象ですね。
こんな風に細かく正確に書くことを重視し、数多くの情報が提示されるので、事件の本筋、流れを追いたい場合は、少し読みづらさを感じると思います。
感想
正直言って、僕はまだ事件を把握しきれていません。それほど複雑怪奇な事件だったことだけは、理解しました。
様々な説が生まれ、そのどれもが最もらしくもあり、嘘っぽくもある。迷宮入りするのはこういう事件なんだなあと改めて思いました。
『3億円事件』も『世田谷一家殺害事件』も、手がかりになりそうな物はあるのに、どれを追っても行き止まりになる。
下山事件においては情報操作や圧力などがあったようです。
警察内部では捜査一課と二課が自殺と他殺で対立し、GHQでも民政局と参謀部で対立が起きていた。事件に関わっているのは、右翼や政治家の大物ばかりでCIAも暗躍してた……。
こんな陰謀渦巻く状況なら、迷宮入りするのも無理はないと思いました。
本書を読んで驚いたのは、スパイ小説などでお馴染みの〇〇機関というのが、当時はいくらでもあったということ。秘密工作を行うその手の機関が、当たり前のように存在していたなんて知りませんでした。
なんでも、CIAを始めプロの諜報機関は、真実の中に嘘を混ぜて情報操作するそうです。さも流出したように見せかけて、わざと広めたりするらしい。恐ろしい世界ですね。
事実は小説よりも奇なりと言いますが、戦中はもちろん、戦後の混乱期にも色々行われてたんでしょうね。
あとがき
本書では〝×某〟という伏せ字で、事件の首謀者が仄めかされています。〝×某〟は本の中で何度も登場しているとのこと。
個人的には田中清玄なのかなあと予想してます。松川事件にも関与が噂されてたようだし、東芝つながりで名前が挙がったのは、田中清玄だったと思います。
全然把握しきれてないので的外れかもしれないですけどね。
同じ日本でありながら今とはまったく違う別世界。そんな昭和の暗部に触れられる良書でした。


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