『ヒトラーとナチ・ドイツ』 石田勇治

この前『ユダヤ人の歴史』という本を読んで、第二次大戦中のドイツのことをもっと知りたいと思い、本書を手にとりました。ヒトラーがどのようにして総統まで昇りつめたのか、どうしてナチスドイツはユダヤ人を虐殺したのかが、時系列に沿って書かれているので、経緯が把握しやすかったです。文章も読みやすくて良い本。


ナチ党が一党独裁になるまで発展できたのは、第一世界大戦の敗戦が大きな影響を与えているのは間違いなさそうです。これによりドイツ帝国が崩壊し、新たに誕生したヴァイマル共和国はベルサイユ条約により多額の賠償金を負わされることになった。右から左へと急激に変わり社会は混乱をきたした。国民はさぞかし不満をつのらせていたでしょう。

その結果、敗戦の屈辱、不公平な条約を打破してくれる強い政府=ナチ党が支持されていったのでしょう。第一次大戦時に軍の元帥だったヒンデンブルク大統領がヒトラーを首相に任命したのも、早急に議会制政治を終わらせるのが目的だった。本書が触れているのは主にヒトラーがナチ党を発足してからなので、第一次大戦のドイツの状況も詳しく勉強したいと思いました。

国会第一党になった時点のナチ党は総議席の三分の一を獲得したに過ぎず、小さな政府だった。そこからいかにして一党独裁までいったか。この経緯が詳しく書かれていて勉強になりました。ヒトラーといえば演説が有名。言葉の持つ力を知っていたナチ党は弁士養成学校を作って人材を育成し、選挙の時には彼らを大量投入して各地で演説を行った。それと並行して、突撃隊という暴力部隊を使って左翼勢力を力でねじ伏せた。極めつけは議事堂炎上令と授権法だが、詳しくは本書を参照して下さい。このようにナチ党=ヒトラーは法と力を駆使して着実に権力を手中に収めていった。

ナチスドイツといえばホロコーストが有名ですが、他にも数々の非道なことを行っていた。中でも安楽死殺害政策はひどい。これは精神病や不治の病の患者を組織的に殺害するもので、これにかかわったスタッフが後にアウシュビッツなどの強制収容所の虐殺に関わっている。なぜヒトラーがこのような行動に出たかというと、それは彼が人種主義者だったから。アーリア人が至上の人種で、健康なアーリア人が結束することで強いドイツになると考えていた。その結果、病気の者やユダヤ人が殺されていったのだ。この辺りのことも詳しく書かれている。

ヒトラーも最初はユダヤ人を虐殺することは考えていなかった。ドイツからの追放を目指していたのだが、戦争中の様々な事情(食糧難、疾病、独ソ戦の長期化)で虐殺へと舵を切った。ヒトラーは妄執にとりつかれていたのだと思う。その結果、アメリカに宣戦布告するなど軍事的な判断ミスを犯してしまう。戦況が傾いてすべての力を戦争へ向けるべき時も、ヒトラーはユダヤ人に対する虐殺をやめなかったのだ。

本書はナチ党が権力を拡大していったやり口や、ヒトラーの思想などがわかりやすくまとめられています。興味のある人にはおすすめですね。

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