連作短編ミステリ『サーチライトと誘蛾灯』櫻田智也 あらすじと感想

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感想 ★★★★☆
五編が収められたミステリ短編集。表題作『サーチライトと誘蛾灯』は、ミステリーズ!新人賞を受賞しています。

昆虫好きの青年が探偵役を務める連作短編形式で、どの話にも昆虫が絡んできます。

これがデビュー作のようですが、書き慣れている印象を受けました。ベテラン作家の作品と言われても違和感がありません。

読みやすかったし、過不足無くまとまっていて安定感があります。

一番印象に残ったのは『火事と標本』。これは短編の傑作と言っても過言ではないでしょう。

あらすじ

『サーチライトと誘蛾灯』

住み着いていたホームレスを撤去させ、治安維持に努めていた公園で、死体が発見される。死因は頭部を強打したことで、事故が事件か判然としない。

ボランティアで見回り隊をしていた男は、事件のあった夜に怪しげな人物を目撃していた。
いい年した大人が公園で昆虫採集をしていたのだ。エリサワと名乗るその男と話しているうちに、思いも寄らぬ真相が明らかになる。
『ホバリング・バタフライ』

観光地化に成功した湿原と失敗した高原。同じ地域にある二つの運営団体には、些細ないざこざがあった。

湿原でゴミの不法投棄が相次ぎ、高原側の嫌がらせではないかと邪推する。それを確かめるために、一計を案じるも予想外の事態へ発展するのだった。

『ナナフシの夜』

町外れにあるバーで、常連客たちが憩いの一時を過ごしていた。そこへふらりとやって来たエリサワは、すぐに意気投合する。

その日バーに居たのは、マスターとサラリーマンと仲の良さそうな中年夫婦。

その翌日、中年夫婦の旦那が遺体で発見され、エリサワは再びバーを訪れる。そこで語られるたのは、事件の予想外の姿だった。
『火事と標本』

田舎町で宿屋を営む男が、自身が子供の頃に起きた心中事件を、客であるエリサワに語る。事件を起こしたのは、男を可愛がってくれていた近所の親子だった。

無理心中として解決した事件だったが、話を聞いたエリサワは、事件の裏に隠された驚きの真相を見抜く。

『アドベントの繭』
雪の降るある日、教会で牧師の遺体が発見される。二人暮らしだった15歳の息子の行方もわからなくなっていた。

二人の仲が良くなかったことが判明し、様々な憶測が生まれる。はたして息子が犯人なのか、そして彼はどこへ消えたのか。

設定

探偵役のエリ沢泉(エリサワセン、エリは環境依存文字)は少しとぼけたキャラクターで、人懐っこさがあります。
そんな彼が昆虫目当てに各地へ赴き、謎に遭遇するという形式。各話の語り手は別におり、その人物とエリサワの親交を通して話が展開します。
基本的には一期一会で旅情ミステリのような感じもありますね。
殺人事件を扱っているので、日常の謎ではありません。それでも、エリサワにも各話の語り手にも好感が持てて、読み味としては優しい物語という印象。
事件についても、残虐性やグロテスクな表現はないので、苦手な人も安心して読めます。

各話感想

ミステリーズ!新人賞を受賞した表題作、『サーチライトと誘蛾灯』目当てに読みました。作品の空気感が良くて、過不足なくまとまった上質な短編といった感じ。
でも正直言うと、少し物足りなさも感じました。それは次の『ホバリング・バタフライ』も同じ。
それが変化したのが『ナナフシの夜』からです。この作品からクオリティがさらに上がったように思います。
人の思いや気持ちに深く焦点が当てられ、心に訴えかけてくる趣が加味されています。それによってミステリとしての驚きも大きくなっています。
特に『火事と標本』は凄い。これ目当てに読んでも後悔することはないでしょう。真相を知った時、僕は愕然としました。
ジャンルとしてはホワイダニットに分類されます。この理由は驚くと共に深く心に刺さった。ある意味で狂気。おそらく二度と忘れないと思います。

あとがき

『サーチライトと誘蛾灯』目当てだったのですが、思わぬ発見をした気分ですね。ミステリ好きの人は『火事と標本』は要チェックです。
それ以外の作品は、登場人物が少ないのもあって、結末の予想は付きやすいと思います。でも心の機微で読ませるので、お話としては満足。
読み易くて好感度の高い良質な短編集でした。

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