クローズドサークルの本格ミステリ『ジェリーフィッシュは凍らない』 市川憂人

jellyfish

感想 ★★★★☆

第二十六回鮎川哲也賞受賞作。本格に特化した賞として有名なこの賞を射止めたのも納得の内容でした。二十一世紀の『そして誰もいなくなった』との触れ込みも、あながち大袈裟ではないと思います。

スポンサーリンク

あらすじ

航空機の歴史を変えた小型飛行船ジェリーフィッシュ。その発明者たちは新型ジェリーフィッシュの長距離飛行試験を行っていた。

最初は順調だったものの最終日に機械のトラブルにより雪山に不時着。外部と完全に隔離された状況で、乗組員六人は次々と殺害され、終には全員が他殺体で発見される。

この不可解な事件を女刑事マリアとその部下の青年、漣が捜査する。

スポンサーリンク

ガチガチのクローズドサークル

クローズドな状況で次々と連続殺人が起き、それをその中にいた探偵が解決する、という話ではなく、登場人物全員が死亡します。この設定は『そして誰もいなくなった』から始まり、日本では『十角館の殺人』などが有名。

根強いファンがいて目も肥えているため、よほど優れていないと評価されないだろうし、トリックは出尽くしたとも言われていて、この設定に挑むこと自体が難しい。
本作はそれに真っ向から挑んだわけですが、トリックに関しては見事だったと思う。(以降はネタバレしないように書いているため、分かりづらいかもしれないですがご容赦下さい)。

さて、この状況の場合、犯人は閉じ込められた六人の中にいたのか、それとも外部からやって来たのか、そこがポイントになります。

ここで犯人が使ったトリックの内、一つは予想がつきました。これは本格ミステリを読み慣れていれば勘づく人は多いと思う。なぜなら、一つだけ明らかに特殊な死体があって、そのようにした理由が最も基本的な理由だったから。

そしてもう一つ重大な謎が提示される。内部犯だった場合は他殺体への偽装方法が、外部犯だった場合は現場からの脱出方法が、それぞれ不明で捜査は行き詰まります。

こちらについての方法がわからなかった。メインはこのトリックといっていいでしょう。種明かしをされて、なるほどと気持ちのいい驚きを得られました。本格ミステリに求める一番大事な部分を満たしてくれます。だからトリックに関しては不満はないです。

動機について

否定的な意見が多くなりそうなのが動機に関して。この理由だと動機が弱いとの意見が出ても仕方ないと思う。とはいえ、この手の作品では死が軽いので、動機が弱くてもそこまでの違和感は覚えなかったですね。

犯人はどこまでもピュアだったといえるし、殺された側に殺されるだけの理由があったからです。
それはまあ良いとして、どうしても首を捻ってしまうのが犯人がノートを手に入れた経緯。これは物語の根幹を左右する重大なノートなのだ。

それをあの理由で手に入れたのが納得しかねます。動機よりもよっぽど弱い。もっと強いエピソードを用意しておかないと、とても納得できるものではない。

それと最後に犯人の独白を長々としたのもどうかと思う。ちゃんと全部のことを考えているんだと作者から説明されている気分になって、物語の世界から一歩引いてしまった。

ここまで事細かに書かれると反対に嘘っぽくてご都合主義な印象が強まる。こんな風に事が運ぶなんて不可能だろうと思えてくるのだ。ゆえに簡潔にするか、登場人物たち会話の中でさらりと説明するだけで充分だったと思う。

最後に

以上のように不満点もある作品でした。それでもこの設定で驚きをもたらしてくれたので星四つとしました。本格好きなら読んで損はないです。


キャラクターについて触れておくと、探偵役を務める刑事コンビにはあまり魅力を感じなかった。これは登場回数が少なかったのもあるかもしれません。

本作はジェリーフィッシュ側と刑事側が交互に語られる設定で、主人公たちにずっと寄り添うタイプではなかった。さらに刑事達は聞き込みが主で、感情移入できるほどの何かはなかったです。

続編も出ているようなのでそちらがどうなっているか気になるところ。期待できる作家なのは間違いないでしょう。


コメント

タイトルとURLをコピーしました