本格ミステリ大賞受賞『蝉かえる』桜田智也 あらすじと感想

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感想 ★★★★☆
好評を博した前作『サーチライトと誘蛾灯』の続編で、第21回本格ミステリ大賞を受賞しました。

今作も連作短編集で五編が収められています。昆虫好きのエリサワが各地で事件に遭遇し、謎を解決します。

どの話も一定以上のクオリティを保っており、安定感があります。前作を気に入った人は読んで損はないです。
好感度が高く、誰にでもおすすめできるタイプのシリーズ。
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あらすじ

『蝉かえる』
16年前の災害時にボランティアをしていた男は、その最中、亡くなった少女の幽霊を目撃していた。男は幽霊譚のつもりで話していたものの、話を聞いたエリサワは、少女に関して意外な真相を告げる。
『コマチグモ』
頭部を負傷し意識不明に陥った女性が、アパートの一室で発見された。時を同じくして、そのアパート前の交差点で交通事故が起きる。被害者は中学生の少女。この二人が親子と判明する。はたして一連の事件に関連はあるのか――。
『彼方の甲虫』
知人が営むペンションにやって来たエリサワ。そこには中東出身の客もいた。持ち前の人懐っこさで仲良くなったものの、翌日彼の遺体が発見される。崖からの転落が原因だった。彼の死の真相とは。
『ホタル計画』
サイエンス雑誌の編集長には、ある後悔の念がずっと残っていた。かつて可愛がっていたライターを傷つけ、音信不通になってしまったのだ。ふとしたきっかけからそのライターの居所が判明し、会いに行くことを決意。だが、思いも寄らない事態が待ち受けていた。
『サブサハラの蠅』
大学時代の旧友と空港で偶然再会したエリサワ。旧友はアフリカ帰りで医師として働いていた彼は、現地で大切な人を亡くしていた。彼の話を聞く内、エリサワの脳裏にはある考えが浮かんでいた。
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感想

今回も前回と同じ形式で、各話の語り手とエリサワの親交を通じて物語が展開します。シリーズものと言っても話は独立しているため、本書から読んでも問題ありません。
前作でも思ったことですが、登場人物が少ないのもあって、結末は予想しやすいと思います。とはいえ、主な焦点となっているのはホワイの部分。

理由で驚きをもたらしている話もあるし、ミステリとしての完成度は高いです。結末に納得いかない、なんて不満を感じることはまずないでしょう。

登場人物の感情に重きをおいてあって、お話としての満足度も高いですね。いわゆる、人間を描くことを大事にしている作家さんだと思います。
一番好きだったのは、表題作の『蝉かえる』。ミステリとして一番良くできてたと思うし、悲哀も感じられる物語で短編としての完成度が高かったです。
他の作品にもそれぞれ良さがあって、色んな楽しみを得られる短編集に仕上がっています。本格ミステリ大賞を受賞したのも納得。

ただトリックの衝撃度とかを重視するなら、印象は弱いかもしれません。

あとがき

前作の『火事と標本』ほどインパクトを受ける作品はなかったですが、お話作りが巧みな印象ですね。安定感があってベテラン作家のようです。
そういうタイプゆえ、斬新やさ尖った感じはないです。安心して読める良質な読み物という印象。次回作が出たら読むでしょうね。

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