感想 ★★★☆☆
実話怪談テイストの連作短編集です。よくある事とはいえ、帯にある宣伝文句は大袈裟に感じましたね。〝驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃〟と書かれてますが、別にどんでん返しというほどではないので、肩すかしを食らう人も多いはず。
各話の怪談エピソードには不気味なものもあって、実話テイストのホラー小説としては、悪くないと思いますけどね。
作家である主人公の周りで起きた不思議な体験を、短編小説の形で発表するという形式。怖いエピソードは作中作のような感じですね。この手のスタイルの場合、創作か実話かわからなくなってリアリティが出ます。
映画でいうところのフェイクドキュメンタリー。映画でも小説でもこの手法はホラーとの相性が抜群。僕はこのジャンルが好きでよく見てます。
各話あらすじ
『染み』
広告代理店に勤める女性が体験した話。その人は恋人を自殺で失っており、自責の念に苦しみつつ仕事をこなしていた。ある日、電車内に載せる広告をチェックしていると、奇妙な染みがあるのに気付く。印刷工程でのミスかと思い、拡大して調べた女性は戦慄を覚えるのだった。
『お祓いを頼む女』
主人公と親交のある作家が体験した話。その人のところへお祓いをして欲しいと頼む親子連れがやってくる。お祓いなど出来ないと断るも、あまりにもしつこく必死なので、下手に刺激しないよう話だけは聞くことに。
なんでも自分は祟られていて、災いが家族にも及んでいるという。そして子供が事故に遭った話を聞くのだが、その顛末には意外な理由が隠されていた。
『妄言』
新居を購入した夫婦の隣人トラブルの話。夫の浮気現場を目撃したと喚く隣人のせいで夫婦仲は悪くなり、妊娠中だった妻は流産してしまう。夫は浮気なんてしていないにもかかわらず、隣人は間違いないと断言する。何故そのような食い違いが起きたのか、それには思わぬ理由が隠されていた。
『助けてって言ったのに』
夜な夜な悪夢に唸らされるようになった女性の話。彼女は夢の中で謎の人物と遭遇し、『助けてって言ったのに』と非難される。もちろん何の事だかさっぱりわからない。そしてついに決定的な出来事が起きる。
『誰かの怪異』
不動産に関する話。アパートで一人暮らしをする大学生が、部屋で幽霊の姿を目撃する。気になった彼は霊感の強い友人に相談。そしてお祓いしてもらうことになった。これで安心と思ったのも束の間、怪奇現象はさらに悪化するのだった。
『禁忌』
連作短編集としての締めくくり。これまでの話を主人公は短編小説の形で発表してきた。すべての話には共通点があって、それに気付いた主人公にも危険が及ぶ。
感想
本作は2019年の『このミステリーがすごい!』ランキングで10位に入った作品ですが、ミステリ色は弱いですね。確かに探偵役っぽい人物がいて、安楽椅子探偵みたいな感じで意外な真相を導き出しはします。
それでも、ネタにしているのが怪奇現象というのもあって、ミステリ的な謎解きとは少し違います。本書は実話怪談系のホラー小説として読むものだと思います。
そしてホラー小説として見るならば、そこまで怖いわけでもない。特に不満はないけれど、積極的に人に勧めたくなるほどではなかった。
この中で一番良かったのは『誰かの怪異』。真相は予想できるものの、切ない系のホラーでこういうのは好きですね。
あとがき
帯の煽り文句が大仰だったゆえに、どうしても物足りない印象を受けてしまいます。読みやすいし、実話系のホラーを探している人にはいいかもしれません。
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