
感想 ★★★★☆
ホラー小説大賞を受賞した著者のデビュー作。〝ぼぎわん〟という謎の化け者に襲われる家族の様子を描いた作品です。
ホラー界ではかなり話題になってましたね。読んでみてそれも納得。
そこまでホラー小説を読んでない僕にとっては、このレベルの長編は久しぶりな気がします。
(短編ではいろいろありますが)。
とはいえ、家族問題についての描写が多すぎて家族小説を読んでいるのか、ホラーを
読んでいるのか分からなくなる部分があった。
なんなら恐怖を書くよりもそっちを書くのが目的じゃないかと思えるほどで、しんどく
感じる時もありましたね。
あらすじ
愛する妻と子に恵まれ、田原秀樹は幸せな毎日を送っていた。そんなある日、田原を訪ねて会社へ来訪者が来る。
受付へ向かうもそこには誰もおらず、応対に当たった同僚にどんな人物か聞いても、覚えていないという。
不審に思っていると、その同僚が突然血を流し床に倒れ込む。一命は取り留めたものの、寝たきりとなってしまう。
田原は幼い頃に祖父母の家で体験した出来事を思い出す。家に不気味な存在がやって来て名前を呼ばれたのだ。出ようとすると祖父に一喝される。
「アレが来たら絶対に答えたらあかん。山へ連れて行かれる」
もしかしたらアレがまた自分の元へやって来たのではないか。田原の予感は的中し、アレは徐々に田原とその家族の元へ近づいてくる。
恐れをなした田原は伝手を頼りに、オカルトライターの野崎と霊能者の比嘉真琴の強力を得る。二人はあの手この手で対策を練るのだが、アレの力は予想を遙かに超えた強大なものだった。
真琴では対応できず、協力を仰いだ有名な霊能者は呆気なく殺されてしまう。打つ手がなく途方に暮れたその時、最強の霊能者が現れるのだった。
感想
物語の筋立ては王道ながら、化け者の設定や構成に工夫が凝らされていて楽しめました。
まず化け者の名前が秀逸ですね。〝ぼぎわん〟って何だろうと、興味を惹かれたのが読むきっかけです。
ただ怖そうな名前を付けただけで特別な意味はないと思っていたので、語源を知った時は驚きました。
なるほどそういう意味かと、納得もしたし、1つの説としても面白かった。こういう話は民族学やオカルト愛好者は好きだと思う。
構成は3つの章に分かれており、それぞれで語り手が変わります。各人の目を通すことで、同じものが違う景色に変化して面白い。
語り手次第で物語の印象ってまったく変わるんだなあと、改めて思いました。語り手ってほんと大事。
大まかな流れはホラーの王道といえます。家族に禍が降りかかり、それを何とかするために専門家に相談。そして禍の原因を探り除霊を試みる。
『リング』も『エクソシスト』も同じような展開ですね。なのでもはや心霊系の作法、起承転結と言えるかもしれません。
原因を探り徐々に明らかになる展開、そして原因が何なのかが心霊ホラーの見所の1つだと思います。本作のそれはとても魅力的でした。
化け者の不気味さ、容赦のなさに怖さを感じられ満足です。なのでホラーに関しては何も不満はない。
でも冒頭でも行ったように、家族の問題についてのパートがとても多い。夫婦間の問題や育児について、絶妙な嫌さを出していて巧みです。リアリティがある。
しかしだからこそ現実に戻っちゃうんですよね。あくまで僕の場合はですが、ホラー小説として没入していたのに、現実問題のパートで現実に引き戻された。まるでその手のノンフィクションを読んでいるような気分になりました。
家族の問題が物語の根幹と密接に関わっているため、重要なのは間違いないです。それでもそう感じてしまいました。夫婦の問題とか男女の問題などを、エンタメホラーで長々と読みたくはないですかね。
それとここまで細かく描写する必要があるのかと、思う箇所も何点かありました。
あとがき
長編ホラーとして満足できる1冊でした。シリーズ化しているようなので他の作品も気になりますね。


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