感想 ★★★☆☆
古典部シリーズの四作目となる本作は、今までと趣向が変わってシリーズ初の短編集になっています。
過去作品の合間を縫うように、折木奉太郎が入学してからの一年が描かれていて、各短編は季節感を感じられる作品になっています。
ミステリとしては小粒ながらどれも普通に楽しめる話でした。
あらすじ
『やるべきことは手短に』
幽霊話から始まり謎の勧誘広告の行方を捜す話。
『大罪を犯す』
几帳面な教師がある勘違いをし、なぜそれが起きたか推理する。
『正体見たり』
幽霊が出ると噂の旅館で幽霊を目撃し、その正体を探る。
『心あたりのある者は』
生徒の呼び出し放送から意外な真相を導き出す。
『あきましておめでとう』
外から鍵をかけられた納屋から脱出を試みる話。
『手作りチョコレート事件』
手作りチョコレート消失の謎を追う。
『遠まわりする雛』
集落を練り歩く神事の行列に折木が参加する話。
感想
本作で面白いと思ったのは、『正体見たり』と『あきましておめでとう』と『遠まわりする雛』の三つ。
他の短編と違ってこの三つは学校外での出来事で、古典部メンバーの普段とは異なる表情が見られて面白い。
『正体見たり』では、夏休みに皆で伊原摩耶花の知り合いが経営する山奥の温泉宿に遊びに行き、折木が情けない一面を見せたりする。
『あきましておめでとう』は伊原が神社のバイトで巫女さんになり、千反田えるが着物姿を披露するお正月の話。
折木と千反田は寒い中、納屋に閉じ込められているのに、とぼけた会話をしていておかしみを感じられる。
表題作の『遠まわりする雛』は、何といっても雅やかに変装した千反田の美しさに尽きます。それを見て折木の心にも変化が生じることになるので、シリーズとしても重要な作品。
最初の何作かを読んで、番外編のようなものかと感じていたのですが、最後の二つが古典部の人間関係を知る上で外せない作品になっています。
『手作りチョコレート事件』を読んで、福部里志はサイコパスなんじゃないかと疑いたくなりました。
後で彼なりに理由があったことが判明してその疑いは消しましたが、個人的には共感できなかったですね。
その話がちょっとシリアスなくらいで、他は全部ほのぼのした日常を描いています。特に折木と千反田に焦点が当てられていますね。
あとがき
本書は一応ミステリの作品ですが、トリックとして面白いものはありませんでした。
本作をいきなり読むよりも、これまでの作品を読んで各キャラクターを知っておいた方が楽しめると思います。
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