
感想 ★★★☆☆
各種ミステリーランキングの海外部門で一位を獲得し話題となった本作。海外ミステリがこれほど注目を集めたのは、近年まれに見る出来事だと思う。
その証拠に出版部数も上々で、出版不振といわれる昨今においてミステリが、しかも海外ミステリがこれほど売れるのは、大ヒットといっていいでしょう。
だからどれほど凄い作品なのだろうと期待してページを繰った。その結果、読み終えての率直な感想としては、そんなに大騒ぎするほどでもない、でした。
あらすじ
物語は容姿端麗な美女アレックスが、何者かに誘拐されるところから始まる。
アレックスは誘拐犯に殴る蹴るの暴行を加えられ、さらに身動きもままならないほど狭い檻の中に監禁される。
男の目的が何なのかは不明で、彼女が弱っていく様がこと細かに描写される。
それと並行してもう一人の主人公である刑事のカミーユが、この事件の捜査をしている様子が描かれます。
いったいアレックスはどうなってしまうのか、カミーユたちは犯人に辿りつくことができるのか、読んでいる方はハラハラさせられます。
第一部の後半は映画でいうカットバックのような感じでスピード感があります。
構成の妙
臨場感が凄いとは言え、第1部までだとよくあるサスペンスと同じ。本作が他と一線を画しているのは、第二部、第三部と進むに従い、それまで見ていた景色ががらりと変わるところ。
第一部ではただのかわいそうな被害者に見えていたアレックス。しかし第二部でとある秘密が明らかとなり、第三部でまた予想外の展開が待っている。
こんな風にそれまでの前提が覆っていくのが面白いです。
そうは言っても、各部で明らかになる真相は奇抜でも独特でもない。確かに過酷だし、衝撃的だけれど、それゆえにこの手の猟奇事件ではよく見かける事由でもあります。
何のことを言っているかはネタバレになるので書けませんが、その部分に意外性を感じなかったので星は三つにしました。
総評
カミーユを含む刑事たちはそれぞれキャラが立っていたし、翻訳文という感じもなく読み易かったです。普通に日本人作家が書いたような文体でした。
かなり凄惨なシーンが多々あるので、そういうのが苦手な人は注意が必要。映画などでは省かれるような細々したところまで、しっかり描写してあります。
例えば監禁ものの場合、排泄などの生理現象の問題が頭をよぎりますが、そういうところまでちゃんと書いているのです。
小説だからできる表現ですが、苦手と感じる人もいるでしょうね。流行っているからといって軽い気持ちで手に取ると、後悔する可能性が高い。
ちなみに、本作はシリーズ化されているようで、前日譚にあたる『悲しみのイレーヌ』を先に読んでおいた方がいいのかもしれません。
僕はまだ読んでいないのでこれから読もうと思います。

コメント