犯人視点で進むハイジャック小説『シャドー81』 ルシアン・ネイハム

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感想 ★★★★☆

1975年に発表された冒険小説。日本ではミステリーのランキングで一位に輝くなど評価されたのに対して、アメリカではまったく話題にならなったようです。

そのためか著者のルシアン・ネイハムは本作『シャドー81』しか上梓していない。面白い作品だっただけに残念。

ハイジャックもの、倒叙ミステリが好きな人におすすめです。

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あらすじ

世はベトナム戦争の真っ最中。そんな中、ロサンゼルス発ハワイ行きのジャンボ旅客機が何者かにハイジャックされた。

ハイジャック犯は機内におらず、後方から追尾する爆撃機の中という前代未聞の状況。犯人は要求に応えなければ旅客機を爆撃すると脅しをかける。

その要求とは、時間までに巨額の金塊を用意すること。そして地上にいる仲間を空港まで連れてくること。

航空会社、アメリカ政府、FBIは協力して事件に取り組むも、圧倒的不利な状況で犯人たちの為すがままになってしまう。

地上にいる仲間が空港に行くまでの間に、銀行や宝石店などから次々と金目のものを奪って行くのに、ただ指をくわえて見ていることしかできないのだ。

はたしてこのスケールの大きなハイジャック事件の結末やいかに――

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感想

ハイジャックものなのに犯人が機内にいない、というのがまず面白いです。僕はあまりこの手の話を読んだことがないので、とても斬新に感じました。

機内にいた場合どうやって脱出するかが問題になるし、その時に隙ができるはずだけど、その心配がないためよく考えられた上手いやり方だと思います。

第一部で戦時中のベトナムが描かれ、爆撃機の説明や、どうやって軍から奪われたかわかります。

この部分がちょっと長くて、最初にハイジャックされる様子を見せた方がよかったんじゃないかと、読んでいる最中は思いました。

でも読み終わってみると、これでよかったのかもという気がしました。終盤の驚きを考えると、最初にしっかりとベトナムでの様子を描いたのが、効果的に働いていたからです。

本作は主に犯人側の視点から描かれています。倒叙ミステリのような感じですね。

旅客機を乗っ取ってからは、犯人たちが有利に展開して行きます。でも、彼らは計画を実行するために多大な労力をかけているし、危険な目にも合っていて、それ相応の障害が設定されているのがよかったです。

これがなければ、荒唐無稽でご都合主義に感じていたかもしれません。

冒険小説らしいスケールの大きさがあり、先が読めない展開にはハラハラさせられます。最後にはミステリとしての驚きもあって、堪能できる一作でした。

あとがき

映画化されてもよさそうな内容だけど、今のところはまだ映像化されていないようです。壮大で複雑な話なので、二時間に収めるにはちょっと難しいかもしれないですね。

それにしても、これ一作しか出版していないのが本当に残念でならない。ルシアン・ネイハムはもう亡くなっているため、これが唯一無二の作品。

冒険小説史に刻まれるこの傑作は、何年たって色あせることはないでしょう。

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