『ロートレック荘事件』筒井康隆 あらすじと感想 ネタバレ解説

 

感想 ★★★★☆

SF作家として有名な筒井康隆のミステリ作品。他のミステリでは『富豪刑事』があるけれど、そちらは短編集でこちらは長編。

ほとんどミステリを書いていないにもかかわらずこのクオリティとは、さすが筒井康隆。

本作は何と言ってもトリックが有名な作品。

ミステリだけ書いてるミステリ作家でも思い付かなかった斬新なトリック。真相で驚かされるのは間違いないでしょう。

古い作品ですが今読んでも面白いです。

※ トリックについてはネタバレ蘭で触れていますので、未読方はご注意ください。

 

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あらすじ

山奥にある別荘にやって来た画家たち。そこには画家の結婚相手候補が3人いて、滞在中に誰を選ぶか決めるつもりでいた。

3人と接する内、1人に絞ったものの何とその相手が何者かに殺害されてしまう。悲劇はそれだけにとどまらず、さらなる犠牲者を出してしまうのだった。

  

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感想

今回も何年かぶりの再読です。トリックの種類については覚えていたけれど、細かい点はあいまいになっていた。

こうして読み返してみるとよく考えられているなあと思う。

筒井康隆はSF作家であり本来は畑違いのはず。にもかかわらず、ちゃんと破綻なく成立しています。

おそらくミステリにおける暗黙のルールなんかも調べたのでしょうね。その上で奇想天外なことをしてやろうという気概を感じます。

畑違いだからこそ真摯に取り組んでいる印象を受けます。筒井康隆の特徴ともいえる皮肉やふざけた感じはなく、れっきとしたミステリ作品。

ミステリファンにはお馴染みの舞台設定、そんな中で変わった角度からのアプローチをしていて面白い。

ミステリファンほどこの角度からのトリックは眼中になく驚かされたのでは。

今でこそ様々なアプローチのミステリがありますが、当時はかなり斬新に映ったのではないかと予想します。

そしてただトリックが奇抜なだけでなく、物語としても意外性があります。

主人公は幼い頃の事故により障害を負っていて、容姿に関して強い劣等感を持っている。それが事件、物語全体に大きく関わってきます。

僕はこの作品を後味の悪いミステリーという印象を持っていて下記のような記事にも入れていました。

 

でも今回読み返した感想としては、単純に悲しい話だった。後味が悪い話に違いはないのですが、ちょっと印象は異なりますかね。

後味の悪さよりも悲しさの方が勝った。その辺りについてもネタバレにて。

 

あとがき

いろんなサイトのレビューを見てもトリックについて賛否が別れてますね。それも無理もないかもしれません。

ただ有名な作品だし、未読の方は読んでおいて損はないです。200ページほどで長編としては短い方なので読みやすいと思います。

 

 

 

ネタバレ

ここから先はトリックのネタバレになります。

本作は叙述トリックによって登場人物の隠匿が行われています。

本当は浜口重樹、浜口修の二人がいたのに、叙述トリックによって一人と思わせています。

どの章も一人称なのですが、章によって重樹だったり修だったりします。

具体的にどの章がそうなのか、それは解決編で長々と説明されているのでここでは書きません。

個人的にはこの解決編の説明は無粋に感じた。(作者注・何ページの何行)みたいな感じで説明されているため、物語の外に出てしまう。

これは物語内でするのではなく、解説ページでやってもらいたかった。

この叙述トリックで奇抜だと思ったのは、隠匿されている人物が犯人じゃなかった点。

普通こういう大掛かりな仕掛けをする場合、犯人で使いそうなものなのに相棒を隠すというのは、珍しいのではないかと思う。

というか、犯人隠匿の作品は他でも読んだことがありますが、相棒を隠す作品は本書以外に出会っていません。

他にもあるのかなあ。おそらく本書だけではないでしょうか。

ちなみに犯人隠匿の作品は本書より後の刊行です。

犯人自体を隠しているわけではないので、本来不思議な点は何もないんですよね。

わかりやすい伏線があるので犯行方法も明らかです。

バルコニーの腰から下は見えない、典子の部屋にはダム・ウエイターがある、絵里の部屋には隠し扉があるなど。

だから、ただ重樹が犯行を重ねている倒叙ミステリーといっても過言ではない。

それなのに、相棒を隠すことによって誰が犯人かわからないようになっているので、叙述トリックの使い方として斬新だと思う。

さすがは常人とは違う客眼点を持っている筒井康隆という感じ。

最後に物語について。

初読の時はあまりにも犯人が身勝手過ぎて怒りすら感じた。

自分の都合で何の罪もない3人を殺しているし、殺すほどの理由とも思えなかった。

例え修が誰かと結婚したとしても、ちょっと自分が生き辛くなる程度なのだ。

それで胸くそ悪さが強かった。典子については不憫過ぎる。

今回の再読でもその思いは変わらないものの、重樹目線で読めば悲しくもあった。

好きでこんな体になったわけではないし、その劣等感によって人を信じられなくなっているのは、かわいそうです。

その極みとして、相思相愛だったはずの典子を自らの手で殺してしまうは悲劇的。

どう転んでも読後感が良い作品ではないですね。

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