
感想 ★★★☆☆
人の心が読めるテレパスの少女が主人公の短編集。八つの話が収められています。
タイトルにもあるようにどれも家族に関する話。どれも身内同士のドロドロした内容なので読んでいて気持ちのいいタイプではありません。
逆にそういう嫌な話や人間の暗い部分を見たい方におすすめ。その手の話を書かせたらやはり筒井康隆は上手いですね。
嫌な気持ちになりながらも最後まで読んでしまいます。
あらすじ
『無風地帯』
四人家族の上流家庭の話。何も文句を言わない妻を見下す夫は、ホステスの若い女と浮気していた。表面上は普通の家庭に見えるが、実は家族関係はとっくに崩壊していた
『澱の呪縛』
毎日が慌ただしい大家族の話。七瀬によって一家の価値観が一変してしまう。
『青春賛歌』
中年エリート夫婦の話。若さに縋る妻とそれを蔑む夫が迎える悲哀の結末。
『水蜜桃』
会社を定年退職した男の話。生き甲斐を失い家族からも疎まれる彼は七瀬に目を付けた。
『紅蓮菩薩』
赤ちゃんが生まれたばかりの若い夫婦の話。研究者の夫に様々な不満を抱きつつも、良き妻であろうと必死に耐え忍ぶが。
『芝生は緑』
対照的な二組の夫婦の話。互いの妻、夫がとても魅力的に見え、ついに一線を越えようと試みる。
『日曜画家』
日曜画家として有名な男の話。夫や子供から口うるさく文句を言われても自分の世界に浸り続ける。
『亡母渇仰』
夫がマザコンの夫婦の話。最愛の母を亡くし、葬儀の最中いつまでも泣き続ける夫と羞恥に耐える妻。
感想
今回も再読です。主人公の七瀬がテレパスというのは覚えていましたが、内容の方はすっかり忘れていました。
読んでいる最中も、ああそうだ、こういう話だったと思い出すこともなかった。
どうやら設定以外は印象に残っていなかったようです。
物語は連作短編集で、女中の七瀬が様々な家庭で働き、その家庭の問題に直面します。
彼女は人の心が読めるため、行く家庭行く家庭でのトラブルがすぐにわかってしまいます。
容姿端麗の彼女がなぜそんな仕事をしているか、それは自分がテレパスとバレないため。
できるだけ人目を忍んで、場所を転々とできる女中が最適とのこと。
七瀬の設定は唯一覚えていたものの、あれこんなキャラたっけ? と意外に感じました。
七瀬にはいい印象を持っていたんだけれど、こうして改めて読み返して見ると結構性格が歪んでいます。
自己保身のためにえげつないことをやったりするのです。
『水蜜桃』はまあいいとしても、『紅蓮菩薩』に関しては残酷に感じた。『芝生は緑』も実験のためという興味本位のものだし、正直あまり好感は持てない。
他のキャラがそれ以上に歪んでいるから特別気にはならないけれども。
とにかくこの小説には問題ある人物しか出てきません。心の中で見下したり、悪態をついたりそんなキャラばかりです。
まあでも実際の人間も心の中はそんなものかも知れない。とそんなことを感じられる作品。
どれも家族間の問題の話で、性や老いに関することがメイン。お金とか名声に関することは出てきません。
だからこそ凄くドロドロした話になっています。人間の根源的な問題がテーマですね。
あとがき
本書を読むとテレパスじゃなくてよかったと心から思います。僕は絶対勘弁。
人間の裏の顔、心の内、家族間のドロドロした話に興味がある人におすすめです。


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