『村上海賊の娘』和田竜 下巻のあらすじと感想

murakami

本屋大賞も受賞して話題となった和田竜の歴史小説、『村上海賊の娘』下巻の書評です。
上巻の書評はこちら↓
下巻は織田信長が天王寺砦にやって来たところから始まります。膨大な数の本願寺派の信者に囲まれ、陥落寸前だった天王寺砦でしたが、総大将の信長が来たことによって戦況が一変。本願寺に比べるとわずかな兵だったにもかかわらず、信長は信者たちを蹴散らし天王寺砦から撤退させます。
それだけでは満足せず、これを好機とみるや敵の本丸である本願寺に突撃。その武勇に天王寺砦にいた泉州海賊は沸き立ちます。そんな中、信長の姿を初めて目にした景は、戦慄して立ち尽くしてしまう。
初めて本物の戦を体験した景は、己の甘さを痛感します。自分には戦場に立つ資格がないと思い知らされた景は、意気消沈して故郷の瀬戸内に帰ることに。海賊もやめてどこかに嫁いで普通の女になろうと決意します。

第一次木津川口の戦い

本願寺から助けを求められていた毛利軍は、その願いを聞き入れ村上海賊と共に大阪へ向け出発。ところがこれは茶番でした。上杉謙信が加勢すれば毛利軍も加勢する気だったが、それはないと踏んでいたので、これは形だけで信者たちを見殺しにするつもりでした。
それを知った景は烈火のごとく怒ります。普通の女になるため家で大人しくしていた景が、海賊に復活する。そして僅かな仲間と共に船で大阪へ向かい、浪速湾を守っていた織田軍の泉州海賊に戦いを挑みます。
そのことを知った毛利・村上連合軍は立ち上がります。毛利家は織田信長との戦は避けるつもりでしたが、村上家の姫である景を救うため、現場の判断で織田との戦を決意する。こうして、浪速湾を舞台に、当代きっての海賊たちによる戦いが始まるのでした。

臨場感のある戦

上巻の記事でも述べたように、本作は戦の様子が詳細に描かれています。二つの戦を合わせると、総ページ数の半分くらいあるかもしれません。そう感じるほど多い。なので、戦いを描いた小説と言っても過言ではない。
よって、そういうのに興味がない人からしたら、とても長く感じるでしょうね。僕は楽しく読みましたが、それでも長いとは思います。
著者はインタビューで、この小説は映像を意識して書いたと語っています。和田竜はもともと脚本家志望で、小説家になってからも、映像にした際に映えるかどうかを常に意識しているらしい。
その言葉通り、戦の様子はとても映像的で臨場感満載。是非映像になったところを見たいところですが、莫大な予算を掛けないとこの迫力は出せないでしょうね。だから、ハリウッド映画になって欲しいですが、そうすると別物になるだろうから難しそうです。
日本の小説でハリウッド映画になった作品と言えば、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』がありますが、本作のように歴史小説だと無理っぽいですね。
だから大河ドラマでやって欲しいところ。予算はあるだろうし、長期間やれるので小説の世界を再現できそうです。バトル漫画のような面白さもあるので、上手くやれれば若者からの支持も得られるはず。

バトル漫画ような面白さ

語弊があるかもしれませんが、本書にはバトル漫画のような面白さがあります。特に第一次木津川口の戦いは熱い。開戦までの流れで盛り上がりますし、戦が始まってからも、お互いあの手この手を使ってくるため、いったいどういう結末になるのか目が離せません。
と言ってもこれは史実なので、戦国時代に詳しい人なら結果を知っているでしょう。それでも充分楽しめるバトル展開。海を舞台にして最強を自負する海賊同士が、一族のプライドをかけて総力戦を繰り広げる。読んでいてワクワクが止まりませんでした。
当時の船についても知らないことだらけだったし、海戦における戦術もいろいろあって面白かったです。眞鍋海賊が銛で攻勢を仕掛ければ、村上海賊は秘技である炮烙玉という爆弾を使ってやり返す。集団での戦闘は読み応えがあります。
そして刀を使った1対1の対決もある。最後の景と七五三兵衛の戦いは、さすがにちょっと長すぎると感じました。バトル漫画でも主人公とラスボスの対決は無駄に長かったりしますが、この戦いに関してもその嫌いがあります。
七五三兵衛はもう人間
離れし過ぎてゾンビの域に達していた。さすがにこれはちょっとやり過ぎで、ギャグっぽく感じてしまいましたね。

魅力的な登場人物たち

景と七五三兵衛については上巻で書きましたが、他にも魅力的な登場人物は多くいます。中でも僕が特に興味を惹かれたのは、雑貨党(さいかとう)の存在。こんな集団がいたことを知らなかったので、とても興味深かった。
雑貨党は紀伊半島の南西部を根城にしていた鉄砲傭兵集団で、鈴木孫市という人物が率いていました。雑貨党には本願寺の信者が多くいたので、本願寺側で戦に参加します。彼らは鉄砲の扱いに秀でた専門集団で、織田信長を苦しめました。
今回の戦いでも雑貨党が大活躍します。本願寺側は数こそ多いけれど、戦いの素人の信者たちに過ぎません。雑貨党の存在なくして織田信長と戦うことは不可能だったでしょう。
天王寺砦の戦いでは鈴木孫市が策を巡らし、後一歩のところまで追い詰めますし、第一次木津川口の戦いでは、単独で突撃する景を手助けしました。この小説になくてはならない存在。
鉄砲集団というだけあって、鉄砲による様々な戦術を考案していて知的好奇心をくすぐられます。頭領の鈴木孫市もキャラが立っていて魅力的。
鉄砲の腕は抜群で知略にも長けており、猛禽の目をした男。こう書くと冷酷な人物をイメージしますが、本願寺を助けたり景を助けたり、実は情に厚い男なのでは? と思ってしまいます。
雑貨党については、もっと詳しく知りたいと思うほど印象に残りました。

最後に

今回は二回に渡って『村上海賊の娘』の感想を書きました。ハリウッド映画のようでもあり、バトル漫画のようでもあるので、若い人にもおすすめしたい。分厚い小説、しかも歴史小説となると、若者は敬遠するでしょうから、非常にもったいない。
『キングダム』や『ヴィンランド・サガ』の大ヒットをみても分かるように、歴史物が好きな十代、二十代も多いと思うんですよね。小説好きの僕からしたら、もっと小説の楽しさを知ってほしいし、もっと売れてほしいです。
海賊漫画の『ワンピース』もいいですが、本物の海賊の物語を読んでみるのはいかがでしょう。彼らの生き様に触れるのは、現代に生きる我々にとってプラスになることがあるはずです。彼らは架空の存在では無く、実在した人たちなのです。そう考えると非常に感慨深い。
現実を忘れて物語の世界を堪能できる素晴らしい小説でした。おすすめです。

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