『ずうのめ人形』澤村伊智 比嘉姉妹シリーズ二作目の感想

彼岸花

感想 ★★★★★

『ぼぎわんが、来る』の続編に当たるシリーズ二作目。今回はホラーではお馴染みの
人形が怪異として登場します。

謎の都市伝説『ずうのめ人形』。その話を聞いた者は四日後に死ぬ。

こんな感じの都市伝説は、昔からいろんなものがあって人気がありますね。不幸の手紙、チェーンメール、『リング』の呪いのビデオもそうですね。

本作はそのテーマに挑んだ長編ホラー。とてもよくできたお話で堪能しました。決して誇張ではなく『リング』にも引けをとらない面白さでした。

ただ個人的な好みをいうとあまり好きではない。この話では幼い子供が悲惨な目に遭うんですよね。何の罪もない幼い子供が、かなりむごい目に遭います。

僕はそういうのが嫌いなんですよね。かわいそうで読んでいて嫌な気持ちになりました。

なので好きな作品とはいえませんが、ホラー小説としての面白さは間違いなく一級品。世間の評価が高いのも納得です。傑作と評する人がいるのも頷ける。

いろんな技巧が凝らされているし、怖さも感じられました。

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あらすじ

オカルト雑誌で編集者をしている藤間は、締め切りが迫る中、担当ライターと連絡が取れなくなり焦っていた。記事に穴が空くことを危惧した藤間は、同僚の岩田と共にライターの家を訪れる。

そこで二人が発見したのは変わり果てたライターの姿だった。両目がくりぬかれた状態で、傍らには謎の原稿が残されていた。

岩田がその原稿を持ち帰り読んだ後、藤間にも読むよう勧める。興味を惹かれ読み始める藤間。そこには『ずうのめ人形』なる都市伝説が記されていた。

その原稿を読んで以降、藤間の前にずうのめ人形が現れるようになった。一足先に原稿を読んだ岩田が非業の死を遂げ、これが呪いの話だと発覚。

藤間はオカルトライターの野崎と霊能者の比嘉真琴に助けを求め、三人手分けしてこの原稿の謎に迫る。いったいこの原稿は誰が、何の目的で書いたのか、そこには驚愕の事実が隠されていた。

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人形の設定が秀逸

『ぼぎわんが、来る』と同様、化け物の名前のセンスが抜群ですね。〝ずうのめ〟という字面、音の響き、何とも言えない不気味さがあって凄い。呪術的、民族学的な香りがあって、禁忌な匂いがぷんぷんします。

そしてこれも〝ぼぎわん〟と同じく、ちゃんと意味があるのが凄い。〝ずうのめ〟の由来の知った時は驚きました。……ああ、思い出すとまた悲しくなる……。

それと特筆すべきは人形が持つ意味ですね。人形がモチーフのホラーや怪談は多く有りますが、人形がこういう役割をした話は今まで読んだことがありません。

本作では死期が迫るにつれ、人形が間近に迫って来ます。人形に限らず、幽霊などが徐々に近づいて
来る怪談話はよく見かけます。

本作ではそれに明確な理由を齎しています。ただ恐怖を促すだけじゃないんです。斜め上からの発想で目から鱗が落ちる思いでした。

この点に理由をつけたのは、発見と言っても過言ではないと思う。おそらく類例はないでしょう。

割とさらっと中盤あたりで明かされるんですが、僕にってはカルチャーショックと言っていいくらい斬新でした。

貞子がテレビから出てくるくらいの意外性です。これだけでも読んで良かった

内容と構成

今回も構成に工夫が凝らされていました。原稿の謎を追う藤間のパートと作中作が交互に語られます。作中作は原稿の内容で、2つが交互に進むことで徐々に核心に近づいて行きます。

いじめや家族問題の話も多くしんどい部分もありますが、四日後に死ぬというタイムリミットが設定されているのもあって、基本的にはリーダビリティが高い。

何より早く真相が知りたくてどんどん読み進めてしまいます。一度読み始めたら一気読みですね。

2つの話が交互に語られる構成はミステリではよくあります。ゆえに、何かあるだろうと勘ぐってしまうわけですが(逆に何もなければがっかりだ)、ちゃんと仕掛けが施されていました。

そういう意味でも構成の妙が光ります。

前作では夫婦や家族の問題が1つのテーマとなっていましたが、今作はいじめ問題ですね。そして家族の問題も出てきます。

前作同様、結構なページ数で書かれていて内容は重い。さらに幼い子供が悲惨な目に遭うので、個人的には読んでいてつらかった。

たとえ創作であっても、ホラーであっても、年端もいかない子供があんな目に遭うのはきついですね。不条理、理不尽なのが怖さを喚起させるし、幽霊が子供だけに優しいのも変といえば変。

だからこれに関しては考え方の違い、好みの問題ですかね。

それともう1つ。前作でも思ったことですが、ここまで書く必要があるのかと、思うシーンがありました。この作者は細かいところまできっちり描写したいんでしょうね。

あとがき

おそらく著者は男女の話とか、陽キャとか、そういう俗っぽい話が嫌いなんでしょうね。家族や子供の在り方についても一家言ありそうです。

前作と本作を読むとそう感じます。シリーズ外の作品でも家族が重要なファクターだったりするので、物書きとしてのテーマなのかもしれません。

さて、本作は僕にとっては絶賛したい面と、嫌いな面が両方ある作品でした。子供の扱いなどが気になりましたが、傑作と言っていいでしょう。

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