『妖異金瓶梅』山田風太郎 あらすじと感想

梅の花

感想 ★★★★☆

中国の四大奇書の一つ『金瓶梅』を下敷きに書かれた連作短編ミステリ。

中国の古典『金瓶梅』は富豪西門慶とその妻と妾たちが織りなす、欲望や嫉妬うずまく放蕩生活を描いた物語で、赤裸々な性描写などの理由で発禁となったこともある書です。

そういった作品だけに、男女の欲望やエログロを得意とする山田風太郎が下敷きに選んだことも納得いきます。

本書は『金瓶梅』の世界観をうまく利用した山田風太郎らしい作品でした。

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あらすじと感想

豪商西門家で起こる事件の数々を、当主西門慶の友人である応伯爵が探偵役となって解決へと導く、というのが基本の連作短編集。

しかし、壮大な長編のような読み味でした。そして構成がかなり特殊。一応ミステリということになっていますが、明確にカテゴライズできない作品。

ミステリとしての面白さはあまりないけど、人間ドラマとして濃密でした。放蕩の限りを尽くす好色漢の西門慶、それに仕える美しい妾たち、特に妖艶な美貌を持つ藩金蓮、そして飄々とした応伯爵。彼らのやりとりが興味深い。

西門慶はたくさんの美女に囲まれハーレム状態なのだが、女同士の嫉妬や駆け引きがすさまじいので、あまり羨ましいとは思いませんでした。

自分がこんなところに入ったらすぐに参ってしまいそうだ。

さて、それぞれの短編で起こる事件は、死体を切断するなど陰惨なものがほとんどですそういった事件は本格ミステリでは良く起こるから珍しくはありません。

この作品の特異な点は、犯人が裁かれないところ。探偵役の応伯爵が犯人を許してしまうのです。そういう意味でも一般的なミステリとは異なる。

短編の二作目以降は犯人が誰かは明らかなので、その動機が問題になります。それも読み進めるうちにだんだんと予想できてしまうため、ミステリとしての面白味はほとんどありません。

それでも少しもあきることなく最後まで読み切ることができるから驚き。

本作の終盤近くまでミステリテイストの短編が続きますが、ある作品から、それまでとはまったく異なる展開を見せます

『水滸伝』にも登場する豪傑が現われたあたりから、ミステリではなく、西門家の崩壊を描いた戦闘・アクションもののような小説へと姿を変える

この急転直下の展開は予想していなかったので、驚きつつも楽しく読むことができました。 

西門家で繰り広げられる悲喜劇の日常を、長いこと読んできただけに、読み終わった後には、祭りが終わった後のようなもの悲しさを感じました

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あとがき

山田風太郎らしさ全開でしたね。他の作家ではこのテイストを出すことはできません。昭和を代表する文豪が書いた独特な世界観、堪能しました。おすすめです。

ただ淫猥な表現や残虐な描写もあるので、エログロ小説が苦手な人にはおすすめできません。どのような評価になるかは、個人の趣向によって大きく分かれそうです。

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