『戦場のコックたち』深緑野分 骨太で重厚なミステリ小説をお探しの方に

感想 ★★★★★

第二次大戦において、ノルマンディー上陸作戦に参加した米軍の空挺部隊の話。連作短編ミステリの構成になっていますが、戦争群像小説といって良いと思う。非常に興味深く読むことが出来ました。

重厚な物語で満足度が高かったです。長い話ながら、途中で衝撃の展開が待っているし、飽きずに最後まで読めます。読み終わった後には、ちょっとした喪失感を覚えたほど。

こんな感覚を味わったのは久しぶりかもしれません。第二次大戦を舞台にした小説を探している人、重厚な人間ドラマを探している人には強くおすすめします。

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戦争小説として読み応え抜群

戦場が舞台のミステリという予備知識しかなく読み始めたので、まさかこんな感じの小説とは思ってもみませんでした。

戦争については詳しく描かれず、兵士たちの生活を通して日常の謎が展開される話なのだろうと、勝手に予想していました。束の間の休息で起きるゆるい感じのミステリなのだろうと(第二次世界大戦が舞台ということすら知らなかった)。

おそらくコックというワードからそういうイメージを持ったのだと思います。コック=食事、食事=癒やしの時間といった具合で連想が働いたのだと思う。
それはさておき、実際は戦闘の様子なども詳しく描かれています。著者も戦争を書きたかったんじゃないかなあ。

ミステリの場合、最初にトリックがあって、そのトリックを成立させるための設定を考えていくのが、創作方法だと聞いたことがあります。本作の場合はそうではなく、戦争を描くのが本懐だと思う。実際僕は戦争小説として読みました。

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各話の謎

空挺団の面々が主な登場人物で、ノルマンディー上陸降下からドイツ降伏までが描かれます。そして、その過程で謎が提示される。

第一章 もう使わないはずのパラシュートをたくさん集めていた理由
第二章 大量の物資の盗難事件
第三章 子供を残して自殺した夫婦の謎
第四章 見えない敵に次々と襲われ重傷を負う兵士たち。敵はどこに潜んでいるのか
第五章 収容所からの脱獄方法
といった具合の連作短編形式。ちゃんと謎が提示され、合理的に解決されます。どうして戦場でそんなことが? という事態が発生するため、謎自体に興味を惹かれます。けれども、あっと驚くトリックとか、どんでん返しが凄い! というタイプではありません。

違和感なく合理的に解決され、なるほど、と納得する感じ。ゆえにミステリとしては小粒と言えます。

各話の謎と解決によって、登場人物たちに絆が出来、それが重要な意味を持ちます。こういう構造は連作ミステリの醍醐味で良く練られています。だから、ミステリ小説であるのは間違いありません。

青春小説、群像小説としての面白さ

そうは言っても、やはり戦争小説としての面白さが際立ちます。そして人間ドラマとして魅力的。戦闘していない時の兵士たちの様子、市民たちとの関わりなど細かいところが知れてよかった。

厳しい戦いを通じて仲間たちの絆が深まっていくところなどは、青春小説の良さがあります。登場人物は多いですが、主要キャラは個性的でさほど混乱はしない。

そして終盤付近で衝撃の展開が待っています。これによって物語にさらなる深みを加えています。

最後は多くの読者が望むような結末だったと思います。読んでよかったという気にさせてくれる。後味はいいです。リアルな戦争の現実に気分が沈んでいただけに、尚更いろいろ思うところがあります。

読み終わった後、しばし呆然としました。青春群像小説、戦争小説として考えると完成度の高い傑作。おすすめです。

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