『ぜんしゅの跫』澤村伊智 比嘉姉妹シリーズ5のあらすじと感想

感想 ★★★☆☆

シリーズ五作目は5編が収められた短編集。前作『などらきの首』から二作続けての短編集となります。過去作のキャラがちょっと関わってるだけの話もあって、シリーズ作という感じはあまりしませんでした。

前作にはこれはと思える秀逸な短編があったけれど、本書には残念ながらなかったですね。普通に楽しめるけれど、特筆するほどではなかった。

表題作の『ぜんしゅの跫音』は安定した出来で満足。

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あらすじ

『鏡』 

結婚式に出席した男は、会場にあった巨大な鏡を覗き込んだ。すると背後に霊の姿を目撃してしまい、式の最中も次々と不思議な体験をするのだった。
  

『私の町のレイコさん』

レイコさんという都市伝説を調べる女子高生。その話の元となる事件が起きていることが判明し、友人と共にさらに調査を進める。結果、予想外の真相を知ることになる。 

『鬼のうみたりければ』

幼い頃に山で行方不明になった兄が、30年ぶりに帰って来た。どこに居たのか訪ねると、ずっと白い山にいたという。訝しく思いながらも一緒に暮らし始めると、次々と不可解な出来事が起こるのだった。 

『赤い学生服の女子』

事故に遭い入院した男。その病院には、赤い学生服の女子が現れるという怪談話があり、その子を見たという同室の人間が次々と亡くなった。自分も目撃してしまい死を覚悟するが、男はその女子に心当たりがあった。

『ぜんしゅの跫音』

姿の見えない通り魔事件が次々と発生し、化物の仕業に違いないと踏んだ比嘉姉妹と野崎は、調査に乗り出す。化物の正体は何なのか、なぜ人を襲うのか、そして〝ぜんしゅ〟の意味とは。真琴の機転により、思いも寄らない真相が明らかになるのだった。

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感想

いつもの感じが楽しめるのは表題作の『ぜんしゅの跫音』だけでした。『鏡』と『赤い学生服の女子』はサイドストーリー的な位置づけで、過去作の主要キャラが登場します。

『鏡』は『ぼぎわんが来る』の田原秀樹が主人公で、彼の妻の香奈と娘の知沙のその後が語られます。この話は必要だったかなあ、というのが正直な感想。なんなら読みたくなかったまであります。

『ぼぎわんが来る』できれいに終わってたのに、わざわざこうする必要があったのかと。香奈と知沙については悪趣味にすら映った。

田原一家だけでなく、真琴の将来までわかってしまうし、この話を望んでた人っているんでしょうか。個人的にはない方が良いと思いました。

『赤い学生服の女子』は美晴についての話。小学生の時に美晴と仲良かった古市のその後が描かれます。この話についても、モヤモヤしてしまう。

いい話風にしているのに、彼の体はあんなことになっているし、最後のホラー的なオチもどうなんでしょうね。こちらに関しても悪趣味に感じた。

美晴にとっても古市は特別な存在だったのだから、普通にハッピーエンドにした方がサイドストーリーとして収まりが良かったんじゃないかと思いました。

『私の町のレイコさん』にも同じ事が言えて、このオチにも、うーんと思ってしまいますね。不条理なのはホラーでよくあるので、これはこれでアリだと思います。

でもホラー的なオチがなくても充分成立していた。なので、こちらも普通に終わらせた方が収まりがよかったのでは? という気がしましたね。

『ぜんしゅの跫』は短編ながらシリーズらしさが発揮されていて満足です。比嘉姉妹と野崎も出てくるし、意味深な〝ぜんしゅ〟という名前の由来もユニークでした。

それぞれのキャラの良さも出ていたし、化物の謎も面白かった。短編とは思えない厚みのあるストーリーでした。

あとがき

このシリーズは化物の名前に注目しているのですが、その由来が被ってなくて凄いなあと思います。どの話もオリジナルで意外性があります。

次はどんな化物が出てくるのか、そしてどんなユニークな由来を見せてくれるのか。楽しみですね。

コメント

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