和田竜『村上海賊の娘』上巻 あらすじと感想 海賊たちの生き様を描いた歴史小説 

感想 ★★★★★

『のぼうの城』などで知られる和田竜の歴史小説。受賞すると爆発的に売り上げを伸ばすことで有名な、本屋大賞を受賞しています。『村上海賊の娘』もその例にもれず、大ヒット作となりました。

漫画化もされいるし、映像化の噂なんかもあって知名度は高いと思います。

僕は基本的にミステリ読みで、歴史小説はまったくと言っていいほど読まないので、今まで手つかずでした。

最近『戦場のコックたち』を読んだのがきっかけで、戦いを描いた重厚な小説を読みたいなと、いろいろ探していた際に、この『村上海賊の娘』を思い出して、この度読んでみました。

読んで後悔しましたね。なぜ今まで読まなかったんだと。そう思うくらい面白かったです。総ページ数も千ページ越えで読み応えも抜群、まさに望んでいた通りの物語でした。

長くなりそうなのでまずは上巻の感想を描きたいと思います。

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あらすじ

一向宗の本拠地である大阪本願寺は、織田信長と戦になっていた。織田信長は大阪本願寺の周辺を封鎖し、兵糧攻めにする戦略をとっており、このままでは三ヶ月と持たない状況に陥った。

そこで本願寺は、中国地方の大名・毛利家に助けを求める。要請を受けた毛利家では、どうすべきか協議を重ねる。

本願寺を助ける、それはすなわち織田信長と対立することを意味する。破竹の勢いの織田信長と戦になれば、ただでは済まない。

本願寺を救うべきか見捨てるべきか、両方の意見が出てなかなかまとまらなかったが、結局、毛利家は

兵糧入れすることを決定する。

そこで毛利家は、瀬戸内を拠点とする村上海賊を仲間にしようと画策。

村上海賊は当代随一の海賊衆で、当主の村上武吉は海賊王との異名をとる傑物。織田方に包囲された本願寺に兵糧入れをするには、村上海賊の助けが必要不可欠だった。

かくして、毛利家は村上海賊に協力してもらうべく、交渉に望む。その際、村上武吉が引き受ける条件として出したのが、予想外のものだった。

実の娘である村上景(きょう)を、毛利家直臣である児玉就英の嫁にしろというのだ。その要求に当の

児玉就英は激怒し、一度は交渉決裂に。というのも、景は醜女の上に悍婦だったからだ。

しかし就英は毛利家のことを考え、結局その要求を承諾する。かくして毛利・村上海賊の一団は大阪本願寺へ向けて旅立つのであった。

というのが全体の流れです。本作は歴史小説なので史実に則って書かれています。

題材となっているのは、戦国時代の天王寺砦の戦いと第一次木津川口の戦いで、上巻では天王寺砦の戦いで劣勢に陥った織田軍に、織田信長が到着するところまでが描かれます。

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村上景について

本作の主人公は村上景という名の二十歳の女海賊。瀬戸内海を拠点に活動していた村上水軍の姫です。村上水軍は当時最強と謳われた海賊衆で、能島村上、来島村上、因島村上の三家で構成されています。

中でも能島村上が本家で、当主の村上武吉は海賊王の異名をとった。その愛娘が景。

景は醜女ということですが、それはあくまで当時の価値観での話。その時代はのっぺりした顔立ちが好まれたため、目が大きくはっきりした顔立ちの景は醜女とされていたらしい。

そして、背が高く引き締まった体も魅力とならなかったようです。今とは真逆ですね。顔が良くてスタイル抜群なんて誰もが憧れる存在でしょう。

性格については、気性が荒くじゃじゃ馬を絵に描いたような感じ。彼女は率先して海賊働きをしており、ルールを守らない人間は容赦なく殺します。

そんじょそこらの侍では相手にならないほど腕が立ち、滅法強い。

そんな人物だったので、二十歳になっても嫁のもらい手がなく、景もそのことを気にしています。彼女の目的は海賊家に嫁ぎ、海賊を続けること。戦うことがとにかく好きで、合戦にも憧れを抱いています。

そんな景が天王寺砦の戦いに参加する。瀬戸内で助けた本願寺の信者たちを、本願寺の支城である木津砦に運ぶために、景と弟の景親は大阪に向かいます。

これは毛利軍とは関係のない景の単独行動で、景親は京を見張るために嫌々付いてきたに過ぎない。

景は何も義侠心に駆られてそんなことをしているわけではありません。あくまで個人的な理由から。

大阪の泉州では景のような見た目を好むという噂を聞いたからだ。そこへ行ってあわよくば泉州の海賊衆と結婚しようというのが景の魂胆。

浪速湾に達すると、この地域を取り仕切る眞鍋海賊と知り合います。噂通り景は彼らから美しいと褒めちぎられ、歓待されます。

今まで言われたことのない賛辞の嵐に、景は上機嫌で彼らと親交を深める。そして、その流れで天王寺砦の戦いに参加します。

眞鍋海賊について

眞鍋海賊は泉州を根城に活動していた海賊。泉州は現在の大阪南西部。

泉州の人たちは現代でいうところの関西芸人みたいな感じ。陽気でノリが良く、面白ければ何でもいいという気質。そして言動は荒く柄が悪い。

そんな眞鍋海賊を率いるのが、眞鍋七五三兵衛(まなべしめのひょうえ)という男。筋骨隆々の大男で人間離れした強さ。そして性格も泉州者らしく豪快です。もう一人の主人公と言える存在ですね。

泉州の人間である彼も、景のような見た目が好みで彼女に求婚します。ところで、どうして泉州の人たちの好みは他の地域と違うのでしょう。

それは泉州という場所が関係するようです。貿易が盛んだった大阪には、ヨーロッパから多くの商人が訪れていました。

そんな国際的な場所だったから、くっきりした顔立ちで手足の長い、景のようなタイプが好まれたとのこと。

眞鍋海賊は上記に書いたような気質なので、戦は滅法強い。死を恐れず嬉々として戦いに臨みます。そんな彼らと、最強と謳われる村上海賊との真っ向勝負は、見応え抜群です。

天王寺の戦い

これは織田と本願寺の戦いで、眞鍋海賊がこの戦に織田側として参加します。景はその様子を砦から眺めるという形。この合戦についてとても詳しく語られています。

戦では泉州侍と眞鍋海賊が大活躍する。特に七五三兵衛の働きがすさまじい。まさに獅子奮迅の大活躍。

何が凄いかって彼の使う武器が強すぎる。その武器が何かというと銛なんですよね。

カジキマグロを仕留める時などに使うあれです。これを力の限り投擲すると、遠くにいる敵が四、五人串刺しになるという凶悪っぷり。

七五三兵衛がこの銛攻撃を行うことによって戦況が一変します。実際に敵の人数が凄い勢いで減っていくし、串刺しにされた屍を目の当たりにして、敵の戦意が喪失します。

困った時は銛という感じ。驚くべき必殺技です。

しかし、そんな彼らがいる織田軍も多勢に無勢、圧倒的な数の本願寺に対して撤退を余儀なくされ、天王寺砦は取り囲まれてしまう。陥落するまで時間の問題。

さてどうなる、というところで下巻に続きます。

下巻での海戦もそうですが、戦の様子が詳細に記されている点が、本作の特徴と言えます。戦が好きな人、有名な二つの戦いがどのようなものだったか知りたい人は、読んで損はないです。

戦う様子をただ描いているだけでなく、その時代の戦術についても説明されているので、非常に興味深かった。

次の記事では下巻について解説します。この先ますます熱い展開に突入します。

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