
感想 ★★★☆☆
著者の中山七里は『さよならドビュッシー』でこのミス大賞を受賞しデビューしました。本作はその前に同賞に応募して最終選考も残った作品とのこと。
『さよならドビュッシー』は青春ミステリ、対してこちらはホラー小説です。
デビュー前にもかかわらず、いろんなタイプの作品をこのクオリティで描けるなんて、作家になるべくしてなった感じですね。
本作は製薬会社が絡むパニックホラー。物語も普通に楽しめましたが、ある人物のエピソードが印象に残りました。とても嫌な気持ちにさせられるこのエピソードが強烈で、ゆえに僕の中では後味の悪い話に分類されています。
あらすじ
閉鎖された薬物研究所の近くで、元研究員が無残な遺体となって発見された。この事件の捜査を担当することなった槇畑は早くも行き詰ってしまう。
薬物研究所は謎が多く、ここに勤務していた社員たちとも連絡が取れないのである。
そんな厄介な事件とほぼ同時期に、嬰児の誘拐事件や繁華街での無差別殺人なども起きており、すべてが繋がっているのではないかと考える槇畑。やがて驚愕の事実が彼を襲う。
感想
序盤はミステリーテイストで進み、後半はアクションありのスリラーになります。後半はまるでヒッチコックの映画を見ているようなスリリングなシーンの連続。
ある意味、ヒッチコック作品のオマージュとも言える。
謎の女が登場したり、如何わしい薬物も出てきて、わりと好きなタイプの話でした。陰惨な描写も多いので、そういうのが苦手な人は注意が必要。
様々な事件の犯人は意外と言えば意外。ただ本格ミステリで感じるような意外性ではないです。
実際にこんなことが起きたらとんでもないことになる、という恐怖を感じられます。そういう意味でパニックホラーとしてよく出来ていると思います。
でも冒頭でも書いた通り、事件の犯人やストーリーよりも、登場人物の過去のエピソードの方が印象に残りました。
警察庁の宮條の過去が壮絶でした。暴力団との麻薬に関する話。これはあまりにも酷くて胸糞が悪くなりました。このエピソードでノワール小説が一本書けそうなくらい作り込まれています。
暴力団関連のこの手の話は、現実的なリアリティを感じるだけに、トラウマになりかねないほどきつい。それほど悲惨です。
あとがき
様々な要素が詰め込まれていて、若干まとまりの悪い感じがしたけれど、普通に楽しめました。パニック系のエンタメホラーが好きな人におすすめ。


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