吉岡暁『サンマイ崩れ』に収録された『ウスサマ明王』が秀作

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感想 ★★★☆☆

日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞した『サンマイ崩れ』と、書き下ろし長編の『ウスサマ明王』がセットになった一冊。正直『サンマイ崩れ』の方はそれほどでしたが、『ウスサマ明王』の方はなかなか読み応えがあって楽しめました。

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『サンマイ崩れ』

あらすじ

台風に襲われた熊野山地の集落は壊滅的な被害を受けていた。山崩れが起き、川は氾濫し、周囲からは隔絶された状態。近くの精神病院に入院していた〝僕〟は、それを知るといてもたってもいられず、集落へ直行する。

集落には災害支援の自衛隊や消防団員が多く集まっており、僕はワタナベという老人と二人の消防団員と共に、土砂崩れした墓地の修繕に向かう。

その道中、僕はワタナベさんと仲良くなるものの、柄の悪い二人の消防団員とは険悪なまま。おまけに墓地までの道のりは険しい。

そんなこんなで何とか墓地まで辿り着いた僕は、そこで驚きの光景を目にするのだった。

感想

主人公が精神病患者、そして一人称というのもあって、何かあるだろうと予想できたため、結末がわかっても驚きは得られなかったです。今ではもう手垢が付きまくったネタだし、発売当時としても珍しい手法ではなかったと思う。

主人公の内面描写が多くて、登場人物たちとの会話も少ないため、テンポよくサクサク読めるタイプではないです。そのやり方に意味があったとはいえ、読んでいてあまり面白みを感じませんでした。ただ、精神病に関する蘊蓄はあるので、そういう意味では面白いですが。

『サンマイ崩れ』については、最後のネタで驚けるかどうかで評価が変わってきそうです。短調にならないよう工夫されていたとはいえ、今ではなかなか難しいと思います。いろんな小説や映画を見ている人なら尚更です。

このネタ自体が嫌いという人もいるでしょう。ちなみに、ホラー小説大賞を受賞していますが、身の毛もよだつ怖い話というタイプではないです。

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ウスサマ明王

こちらの話は端的に言うと化物vs自衛隊。定期的に現れては殺戮の限りを尽くす謎の化物と、その化物の存在を秘密裏に追い続けている自衛隊の特殊部隊。そんな彼らの長年に渡る戦いに、遂に終止符が打たれるーーという話。

ハリウッド映画のモンスターものをイメージしてもらえれば間違いないです。特殊部隊の方は現代の兵器を使って化物討伐に乗り出し、化物の方はその異常な力によって次々と返り討ちにする。そんな具合で物語は進んでいき、両方ともボロボロになったところで結末を迎えます。

主な話の筋は上記の通りで、その合間に化物誕生の経緯が語られます。こちらの話の舞台は明治時代で、怪談めいた作りになっています。その内容は悲劇的で印象に残る話でした。

モンスター映画などでは通常、化物側の話が詳しく語られることはないので、その辺が日本の作品らしいと感じました。

日本の怪談やホラーの場合、幽霊側の事情を書くことも少なくありません。『四谷怪談』のお岩さんにしても、『リング』の貞子にしても、怨霊になった事情が語られ、そんな酷い目にあったならそうなっても仕方ないよね、と思えるお話が人気になっています。

日本人はそこに怖さや、ある種の情緒みたいなものを感じるのかもしれませんね。

最後に

ウスサマ明王はモンスター映画と怪談が合わさったような感じです。人物の視点がコロコロ移動するし、明治時代の話が定期的に入ってくるので、ごちゃごちゃしている印象はあります。
それでも別段読みづらさは感じませんでした。物語に勢いがあるので一気に読めてしまいます。こういうモンスター系の話が好きな人にはおすすめです。

本書『サンマイ崩れ』はタイプも長さも違う二つの話が楽しめる一冊。他の作品も読んでみたいと思ったのですが、どうやら著作はこの一冊しかないようです。残念。

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