感想 ★★★☆☆
小説の公募賞でもっとも賞金が高い『このミステリーがすごい!』大賞。
著者は本作と『さよならドビュッシー』 の二作を同時に応募して、どちらも最終選考に残るという史上初の快挙を成し遂げました。
二つの作品はテイストがまったく異なっており、一つに絞ることができなかったというのがその理由らしい。結果、『さよならドビュッシー』が大賞に選ばれデビューした。
そんな華々しい経歴だと何だか胡散臭いものを感じてしまうのですが、両方を読んでみると確かに良く出来ており、納得しました。
『さよならドビュッシー』はスポコン要素のある爽やかな青春音楽ミステリー。
それに対して本作は、カエル男と名付けられた殺人鬼が、何の罪もない人々を次々と殺害し、世間を恐怖のどん底に陥れるサイコサスペンス。
選考委員の言う通り、どちらか一方に絞るのは困難です。
あらすじ
マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の死体が発見された。そこには子供が書いたような稚拙な犯行声明文が残されていた。
その後もカエル男の犯行は止まらない。いずれの犯行も、人をおもちゃのように扱っており、その猟奇性に世間は震えあがる。
なかなか犯人を捕まえられない警察に対して、近隣住民やマスコミからは非難が集中する。
はたして、警察はカエル男を逮捕し失われた信頼を取り戻すことができるのか。
感想
主人公の刑事視点でストーリーが進んで行き、その合間に犯人の視点が入る構成。この手の小説のオーソドックスといえる作りでした。
少しとぼけた感じのするタイトルだったので、軽く読めるエンタメテイスト満載のサスペンスだろうと思っていました。
しかし意外にも重いテーマを扱っており、読んでいて憤りを感じたり胸糞が悪くなったりしました。
刑法第39条の心神喪失者の責任能力について改めて考えさせられます。
著者の中山七里は結構えげつない話も書く人で、本作でもそれがいかんなく発揮されています。こうなってほしくない、と思うことを、容赦なくやってきます。
本作の結末も救いのないもので読後感は最悪。いわゆる鬱作品というやつですね。
良質な作品に違いないけれど、格闘シーンに関しては冗長に感じました。そのため警察署のシーン、それと犯人とやり合うシーンでハラハラしなかった。
どんでん返しとの触れ込みがあるけれど、そういう系の有名作品と比べると弱かったです。驚かせることに主眼を置いてないように思う。
どちらかといえば社会派に近い作品だと感じました。
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