大ヒット歴史小説ミステリ 『黒牢城』米澤穂信 あらすじと感想

 

感想 ★★★★★

2021年に発売され数々のミステリ賞を総なめにした作品。

出版不況といわれる昨今では、まれに見る超話題作となりました。しかも歴史小説となると本当に稀有なことと思う。

いったいどれほどのものだろうと、期待して読んだわけですが、なるほど確かに面白かった。賞を総なめにしたのも納得。

読み応えがあり、とても楽しい読書体験となりました。

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あらすじ

織田信長に反旗を翻し、籠城する有岡城。城主の荒木村重には毛利の助けを得るという策があり、織田軍にも勝てると踏んでいた。

有岡城の守りは堅牢で、毛利軍が来るまで容易に籠城できる算段だった。

しかし毛利はなかなかやってこず、その間に城内では様々な事態が起こる。

衆人環視下での刺殺事件。首実検中での首のすげ替え事件。密室殺人。何処かから放たれた謎の銃弾。

これらの謎に村重は頭を抱える。事件が家臣や民衆に与える影響は見過ごせなかった。

籠城中は城内の結束が不可欠。謎のまま放置していては不振や疑惑が広がり、結果的に城が落ちることに繋がっていく。

自分一人で解決を試みる村重だったが、解くことができない。そこで村重は最後の手段に出る。

地下牢に幽閉する黒田官兵衛の頭脳に頼ることにした。

官兵衛は村重を説得するため、織田からの使者として有岡城にやってきた。応じるつもりがない村重は、官兵衛を地下牢に閉じ込めていたのだった。

かくして、城主と囚人による摩訶不思議な謎解きが行われる。

 

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感想

歴史小説として

歴史小説は普段あまり読まないのですが、そんな僕でも問題なく楽しめました。

各章で事件が起きて解決される連作短編形式。ミステリとしてもさることながら、純粋に物語として面白かったです。

各事件それ自体は、そこまで難易度が高いわけでも、驚くべきトリックが使われているわけでもなかった。でも、これら事件を含め全体としてみると、とても面白いお話でした。

浅学の僕は有岡城の戦いについて知らなかったので、勉強になることも多く、とても興味深かった。

有名な黒田官兵衛の名前は知っていても、牢獄に閉じ込められていたとは知らなかった。

ざっと概要を見るだけでもいろいろと興味深い戦いで、これを題材にして物語として、そしてミステリとしても面白く仕上げているのだから、評価されるのも納得。

作者の手腕が見事ですね。

『村上海賊の娘』を読んだ時も感動するくらい面白かったのですが、その話と同時代だったのが個人的にはよかった。

おかげ織田と本願寺・毛利の関係や、当時の時世がわかっていたので話に入りやすかった。より楽しめた気がします。

戦国時代に詳しい人ならさらに楽しめるでしょうね。

本書では有岡城の籠城から開城までが描かれており、主人公の村重を通して一連の出来事が語られます。

歴史に疎いため村重の実際の人物評などは知りませんが、本書では魅力的な知将として描かれています。

細かいところまで目が行き届き、油断なく戦略を練り、家臣達からの信頼も厚い。武芸にも秀でています。これぞ戦国武将という感じ。

戦国武将に憧れを持つ人は多いと思いますが、期待するイメージそのものです。理想の上司ランキングをやれば一位になるでしょうね。

そんな彼を通して、当時の習俗、武士や民の価値観がわかって勉強になった。籠城開始当初は余裕綽々だったのに、徐々に追い詰められていく展開も面白い。

ミステリに興味がなかったとしても、歴史小説としてちゃんと楽しめます。

ミステリとして

さて、ミステリについてですが、村重と官兵衛の関係は、さながら『羊たちの沈黙』のクラリスとレクター博士のようで、やはりこの関係性は興味を惹かれます。

頭脳明晰な囚人はなぜこうも魅力的なのか。

城での立場は両極端でも互いに認め合っており、それでいて腹に一物を抱えている。胡乱な関係での謎解きは見所の1つですね。

史実に基づきつつ、村重と官兵衛でこの構図にした着眼点が凄い。この時点でもう勝ちですね。

トリックとして秀逸だったのは最初の事件。シンプルであり、すんなり納得できるユニークなものでした。

そして連作短編らしく各話で残されていた謎が最後に明らかになります。

正直僕は物語の方に集中していて、些細な謎の部分は忘れていました(笑)。言われてみればその通りだと思い出した感じ。なんで忘れてたんだろうと疑問に思ったくらい。

そういう意味でも意外性を感じました。それだけ物語の展開、結末の方にのめり込んでいたということでしょう。

ラストで一ひねり、二ひねりあって、ミステリとして評価されているのも頷けます。ミステリとして読んでもちゃんと楽しめます。

ただ驚天動地のトリックとか、論理がもの凄く緻密とか、そういうタイプではないです。

個人的には動機に凄さを感じました。この時代でないと成立しない動機、価値観と言えて、そこに感嘆しました。

面白そうという理由だけでこの戦い、この時代を舞台にしているわけではなく、ミステリとしてちゃんと意味がある。

そこに凄さを感じましたね。

とてもいい読書体験となりました。満足です。

 

あとがき

ミステリとしてもよかったですが、歴史小説として面白かったです。その満足感が大きい。

あんまり読んでないんですけど面白いですね、歴史小説。『村上海賊の娘』と同様、もっと読んでみたいと思わせてくれました。

 

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