ほのぼのしたミステリ小説『恋と禁忌の述語論理』井上真偽

math

感想 ★★★☆☆

新たな本格ミステリの書き手として頭角を現しつつある井上真偽のデビュー作。本作は数理論理学なるものが推理に使われています。正直難しいことはよくわからないのですが、基本を丁寧に説明しており、読んでいる最中は何となく分かったような気になりました。

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あらすじと内容

物語の構成は連作短編集。主人公の大学生が、叔母である天才数理論理学者に、自分が体験した事件を話し、真実の姿をあぶり出すというスタイル。なので安楽椅子探偵ものですね。

ただ通常と一風違うのは、それぞれの事件がすでに解決されている点。本当にその解決で正しかったのかを、数理論理学を用いて検証していくという形。なかなかありそうでなかったような気がします。一種の多重解決ものともいえます。

僕が特に興味を惹かれたのは、各話で登場する探偵役がしっかり作り込まれていたところ。それぞれに違う魅力があってキャラ立ちしています。

そして驚かされたのが『その可能性はすでに考えた』シリーズの青髪の探偵が登場したこと。デビュー作で登場していたなんて知らなかったから、ある意味で一番意表をつかれました。

もしかして、他の探偵役も別作品のために創作されたキャラなのでしょうか。そう考えるとキャラが完成されていたのも納得がいく。

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ミステリとして

各話のトリックに関しては、特別すごい仕掛けがあるわけではなく、印象に残るようなものはなかったです。本格ミステリ的には最後の足跡トリックがそれっぽくて面白かった。それでも驚嘆するほどではなかったですね。

連作短編を通して最後に明らかになる主人公の目的、これは不要だと感じました。連作短編だから、最後に何かどんでん返し的なものがないと駄目だと思ってこうした、みたいな印象を受けました。

つまり、こうしなければならない必然性が感じられなかったのです。それに、主人公と叔母のほのぼのした雰囲気とマッチしない。

二人のやり取り自体はゆるい感じなのだから、ゆるいまま何もなく普通に終わった方が収まりが良かった気がする。あくまで個人的な意見です。

ほのぼのした雰囲気が魅力

グロいシーンなどはないし、ライトノベルっぽいのが好きな人におすすめ。実写よりもアニメの画が浮かんでくるような作品です。

叔母といってもアラサーで美女という設定。若干わざとらしさを感じるけれども、この手の作品だとこれくらいのわざとらしさは好意的に働くのかもしれない。

なお、このキャラの登場のさせ方が上手かった。いったいどんな人なんだろうと興味を惹かれ、続きが読みたくなりました。

ちなみに、数理論理学について知らなくても読めるし、その部分を流し読みしてもミステリとして楽しむ分には問題ありません。

著者はこの分野の専門家なのでしょうか。数理論理学について知ってもらいたいという思いが伝わってくるようです。

『世界一わかり易い○○』みたいなタイプの専門書を彷彿とさせるというか、どうすれば分かり易く説明できるか熟考した上で、書かれているような気がしました。だから本書をきっかけに専門書に手を伸ばす方もいるかもしれませんね。

ゆるい空気感を楽しめる好感度の高い小説でした。おすすめです。

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