ビールとシュメール人のファンタジー『14歳のバベル』 暖あやこ

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新潮社から上梓されたファンタジー小説。タイトルの通り14歳の少年が主人公です。

少年が主人公でファンタジー、おまけにバベルときたものだから、異世界を旅する冒険ものかと思いきや、そういうエンタメ小説とは全然違いました。

どちらかといえば純文学に近い印象を受けました。

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あらすじ

物語の舞台は現代の日本。ただし、過去に起きたサイバーテロにより、国民は限られた地域にしか住めないし、そのテロが原因でインターネットも使用できなくなっている。ちょっとした鎖国状態。

そんな窮屈な世界を生きる14歳の冬人は、心に傷を抱えており、保健室登校をしていた。父親は仕事人間で母親はヒステリック。

同年代の友達がいないどころか、苛めまで受けている始末。とても孤独な日々を送っていた。

そんなある日、パニック障害を起こした冬人は、病院に運び込まれ怪しげな老医師と出会う。弱い自分を変えたいと願っていた彼は、治療を申し出る。

老医師の施す治療は独特で、ある種の催眠療法といえた。治療の最中、冬人は異世界に居た。

神殿を思わせる建物で、自分とかけ離れた容姿の古代人たちと交流を重ね、気を許せる友達もできる。これらは自分の深層心理が生み出した夢だと冬人は考えていた。

たが、実はその裏で人類の存亡を脅かすとんでもない計画が刻一刻と進行していたのだった。

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作り込まれた世界観

サイバーテロやイエローフライデーなど、興味を惹かれる要素がいろいろありました。サイバーテロは東日本大震災の原発事故を彷彿とさせるし、イエローフライデーはハロウィンやバレンタインなどを想起させます。

他にもビールに関する蘊蓄やメソポタミア文明、シュメール人について知らないことも多く、へぇと思いながら読みました。

細かいところまでしっかり作り込まれており、ファンタジーでありながらリアルな現実感があります。

ストーリー展開

冬人の他にも中心となる人物がいて、それが彼の父親の吾郎です。大手ビール会社に勤める吾郎は、仕事を通して会社の陰謀に迫って行く。

冬人と吾郎、二つのパートが交互に進んで行き、最後に一つに交わり謎が明らかになります。終盤はスパイ小説めいたスピード感ある展開となります。

純文学に近いと最初に書きましたが、それは書き方によるところが大きいです。

冬人と吾郎、二人とも他者との係わりが乏しく会話が少ないため、地の文で内面がしっかり描かれています。それによってキャラクターの心情に深く迫れるようになっています。

こんな風に地の文だけで進められるのは、筆力がある証拠ですね。

キャラクターについて

個人的には冬人と同じ境遇のユキを、もっと生かして欲しかったですね。例えば冬人の様子を不審に思った彼女が、事件に首を突っ込んでピンチに陥るとか。

これは王道過ぎるとしても、立ち位置的にはヒロインなのに、全然からんでこないから逆に気になってしまいました。あまり登場しないのが勿体なく感じましたね。

あとがき

境遇の違う二人の少年の友情を描いた、爽やかで好感度の高い物語でした。十代の若者から大人まで、幅広い年齢が楽しめます。純文学的なところがあり、家族小説でもあるので、大人の方が楽しめるかもしれませんね。

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