多重解決ミステリ『聖女の毒杯』 井上真偽

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感想 ★★★☆☆

『その可能性はすでに考えた』の続編にあたる作品。前作同様、あらゆる可能性が議論されるので、多重解決ものが好きな方にとっては、満足感のある一冊です。

ちなみに本作は2017年版の本格ミステリ・ベスト10で1位に輝いている。


 

 

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あらすじ

その昔、一族の男たちを皆殺しにしたという、カズミ様なる聖女伝説が残る地にやってきたフーリンと八ツ星。二人はそこで伝統的な婚礼の儀を見学する。

一風変わった花嫁行列の後に、花婿と花嫁の家族全員が、大きな杯に注がれた酒を回し飲みしていく。

そのまま滞りなく終わるかと思いきや、一人また一人と倒れて行き、回し飲みをした人物の内、男だけが死んでしまう。

皆同じ杯で同じ酒を飲んだのに、何故女たちは無事だったのか。はたしてどのようなトリックが使われたのか。それともこれはカズミ様による呪いなのか――。

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ストーリー展開

不可解な状況ではありますが、前作と比較すると事件自体は現実的です。結婚に乗り気じゃない花嫁、そして花婿の一族はあくどい商売をしている資産家という設定で、王道ともいえる。

事件がよく出来ているのはもちろんのこと、それ以外の構成にも工夫が凝らされていました。

前作では主人公の青髪の探偵ウエオロが、各章ごとに現われる人物の仮説を否定していくというスタイルで、物語の構成自体は起伏に乏しく平凡でした。しかし本作は読んでいてハラハラするようなサスペンスもあった。

ウエオロは終盤まで登場せず、元弟子の八ツ星が探偵役を務め師匠さながらの推理力で、ある程度の可能性を潰して行く。

そして中盤に入ると、事件の関係者が中国の闇組織に拉致されるという予想外の展開を迎える。

思わぬ強敵が出現し、八ツ星の推理は行き詰まり、フーリンも実は事件に深く関わっていることが判明し、絶体絶命のピンチに陥る。

そこで颯爽と現われるのが探偵のウエオロ。このやり方もヒーローものでは王道ながら、やはり爽快感があっていい。

真相についての感想

最終的に明らかにされる事件の真相には、あまり面白味を感じなかったです。

確かに予想外ではあって、最初はその意外な犯人に驚きもしましたが、それを成立させるための方法が大雑把に感じました。それまでが微に入り細を穿つように緻密だっただけに、拍子抜けしてしまった感がある。

今回は物語の流れが楽しくて、事件の謎と解決についてはそれほどでした。前作と正反対の印象。おそらく三作目も書かれるだろうから次がどうなるか楽しみ。

それと一つ気になったのが三人称で書かれているのに〝自分〟というワードが地の文で何度も使われている点。語り手はフーリンなのですが、こういう書き方をするなら三人称ではなく一人称にして〝私〟とした方が自然な気がしました。

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