
感想 ★★★★★
数々の名作を生み出した連城三紀彦の代表作ともいえる短編集。
どの話も大正から昭和が時代背景となっており、花がキーアイテムとして登場します。
その時代の闇を描きつつ、情緒も感じさせる話の数々で、文学的、耽美的と評される本書ですが、純粋にミステリとしての驚きも与えてくれます。
内容的には大人向けですかね。
あらすじ
『藤の香』
湊町の色街で起きた殺人事件の話。凄惨な連続殺人に秘められた真相とは。
『桔梗の宿』
侘しい村落の少女たちは、僅かばかりの金で娼館へと売られていた。そんな娼館へ通う客が立て続けに殺される事件が発生し、警察が捜査を進める。だが、そこには驚くべき事情が隠されていた。
『桐の棺』
開戦間近の暗い時勢に、ヤクザ者として生きる若者を描いた任侠もの。彼は兄貴分から、ある人物を殺して欲しいと頼まれる。その相手は予想外の人物で――
『白蓮の寺』
物心が付くか付かないかの時分に、母親の犯罪現場を目撃してしまった男。その記憶にずっと悩まされ
続けた彼は、母の死後、その犯罪の意味を知ることとなる。
『戻り川心中』
天才と呼ばれた詩人の生涯に迫る話。数々の名作を生み出した彼は、破天荒な人生を送っていた。中でも二度の心中未遂事件は世間を騒がせた。
彼はなぜ心中しようと思ったのか。そこには常人には思いもよらない事情があった。
感想
どの話もいわゆるホワイダニットに焦点が当てられてます。最後に明かされる動機には、意外性があって驚かされます。
そして、ただ意外なだけではなく、切なさや苦さを感じさせるものになっているのが上手いところ。
ミステリとしても、ストーリーとしても、両方の質を備えた種明かし。さすが連城三紀彦ですね。
大正を舞台にした暗い世界観で、日陰を歩く人たちを描きながら、ところどころで美しさも感じられます。
退廃的な美しさと言いますか、花をテーマにした情景描写も相まって、品格があります。この辺が文学的と評される所以ですね。
表題作の『戻り川心中』が有名で、読んだ当初は僕もこの話が一番印象に残っていたのですが、改めて読み返して見ると、『桔梗の宿』がとても良かった。
このトリックは他の作品でも使われていますが、個人的には『桔梗の宿』が一番好きですね。陰鬱なストーリーと相まって、とても効果的だと思う。
意外性はもちろん、胸にくるものがあります。
『戻り川心中』は正直ストーリー自体には、それほど面白さを感じなかった。どうしても太宰治がちらついてしまうんですよね。
でもすべてをひっくり返す真相は予想外で、ミステリとして高く評価されているのも納得です。トリックと描写の巧みさが際立つ作品。
あとがき
短編集だと玉石混交の場合もよくありますが、本書はどれもクオリティが高い。
必ずしもストーリーが面白いわけではないけれど、トリックを含めて考えると、非常によく出来ています。
それぞれに確かな味があるんですよね。
内容的には大人向けだし、大正昭和の世界観なので、この手の話に興味ない人もいるでしょうね。
退廃的で陰鬱な空気が漂っているし、いま流行りのライトな文章でもないので、好みは分かれるかもしれません。


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