館シリーズ感想『黒猫館の殺人』 綾辻行人 

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感想 ★★★★☆

『十角館の殺人』から始まる館シリーズの六作目。 話として普通に面白かったし、何よりも密室殺人のトリックに捻りが効いていてよかった。『時計館の殺人』のような重厚感はありませんが、気軽に本格ミステリの楽しさを堪能できるいい作品。

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あらすじ

推理作家の鹿谷門美と江南孝明は記憶喪失の老人・鮎田冬馬から、自分が書いた手記を見てほしいと依頼される。そこに書かれていたのは一年前に鮎田が経験した事件のこと。

だが、彼はその時のことをまったく憶えておらず、これが事実なのか、それとも創作なのかわからないと言う。この手記を調べてもらえば、自分が何者なのか判明するのではと考え、鹿谷に依頼したのだ。

手記を読んだ鹿谷と江南は、この事件が中村青司が設計した黒猫館で起きたことだと知り、ますます興味を惹かれ調査を開始。

その結果、どうやら事件は実際に起きたらしいとわかり、黒猫館の場所を突き止めた二人は、鮎田を連れて黒猫館を訪れる。彼の記憶を取り戻そうとしてそうしたのだが、鹿谷はそこで予想外の結末に辿り着く。

本作は鹿谷と江南が調査するパートと、手記のパートが交互に進んで行きます。手記の中で描かれる事件は、黒猫館に訪れた若者たちの間で起こる殺人劇で、鮎田はそこの管理人として関わっています。若者の内の一人が死にその後もう一人死ぬ。いずれの事件も密室内の出来事です。

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密室トリックは秀逸

これまでのシリーズ作に比べると、事件自体は平凡と言えるでしょう。大量殺人などは起きませんし、館のスケールも小さい。けれど、巧みな仕掛けが施されていて、ミステリとしての出来は優れていると思います。真相がわかった時、なるほどと思わず納得。

鮎田老人とは何者なのか、第一の事件はどうして起こったのかで読者の興味を引っ張り、第二の事件に持って行く。鮎田老人については薄々真相に気付きました。本作の肝は何といっても第二の事件です。

第二の事件の密室トリックはある方法を使えば可能で、それ自体は常套手段なんです。鍵を掛けて密室にする定番の方法です。

けれど、作者はここに奇抜な仕掛けを施していて、まったく新しい作品になっていました。盲点と言いますか、発想の転換といいますか、これには思わず唸りました。

本格ミステリ小説を読み慣れている人ほど、常套手段には気付くはずなので、より面白さを感じられるかもしれません。常套手段に気付いて始めて、それを裏切るようなトリックが施されています。

終わりに

『時計館の殺人』のようなある種の感動を得られる大作ではないながら、館シリーズはやはりトリックに期待して読んでいるので、僕は充分に満足感を得ることができました。ミステリとして楽しめるいい作品だと思います。

コメント

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