感想 ★★★☆☆
昭和二十年代から五十年代に書かれた恐怖小説八篇が収録されたアンソロジー。
そろそろ暑くなってきたので、何か怖い話でも読みたいなと思って探していた時に、たまたま見つけました。
小松左京、半村良、山田風太郎などの有名作家の作品も収録されています。
感想
本作に限らずこの時代の作品を読んでいると、やはり現代の価値観とは少々異なるなと、感じることがままあります。
例えば男尊女卑。あからさまでなかったとしても、ふとした描写でそう感じたりする時があります。
実際にこの時代の人たちがどのような価値観を持っていたかは知りませんが、女性をどこか下に見ていたのは確かでしょう。
その証拠に、戦前には姦通罪というのがあったぐらいだから、とても公平とは言えない。女性はさぞかし不満を感じていたでしょう。
それとも、この頃の日本人女性もそれが普通だと考えていたのでしょうか。
その他にも処女をやたらありがたがる風潮がある。結婚するまではそれが当たり前というか 、そうでないと無理、みたいな感じがあるのです。
処女でないと結婚を許さないとか、そういうのをしばしば読んだことがあります。時代はずいぶん変わったなとあらためて思う。
本作に収録されている作品で怖かったのは、『箪笥』と『無花果屋敷』。その他の作品に怖さは感じなかったです。
気味が悪かったり、不思議に思ったりして興味をそそられることはあっても、鳥肌が立つような恐怖とは違いました。
各話のあらすじと感想
『くだんのはは』小松左京
戦時下を舞台にした作品。主人公は空襲を逃れるためにあるお屋敷に疎開する。広い屋敷には主人とお手伝いの二人しかいない。
そう思っていた主人公だったが、ある日、血まみれの包帯を見て、もう一人屋敷に居ることに気付く。そして、そのもう一人というのが……
作者が体験したらしい戦時中の生活にはリアルさがありました。肝心の結末は興味を抱きはしたが、怖いとは感じなかったです。
『月夜蟹』日影丈吉
病気の療養のために訪れた村で体験する恐怖の話を、私小説風に書いています。
私小説らしいダラダラとしたところがあって面白くなかった。設定は嫌いではないです。違う書き方をしてほしかったですね。
『箪笥』半村良
小説を読んでいるというより、怖い話を聞いているような感覚になります。 方言で書かれているので、最初は読みづらいかなと思ったけれど、特に気になることもなく最後まで一気に読めました。
おばあさんが体験した不思議な話を、読者に語りかける形式になっています。
『鬼の末裔』三橋一夫
怖くはなかったけれど一番興味深かったです。大昔、日本にポルトガル人が来て、そのまま日本人として生活していた、という考察は面白かったです。
確かに日本人には、外国人のように彫りの深い人もいるので、そのような考えも肯けます。
『無花果屋敷』島田一男
腹話術師の女と主人公の恋愛物語。きちんと怖さを感じられる良質な作品。恐怖小説としてよく作られていると思う。
『からす』多岐川恭
サイコパスな兄弟の犯罪小説といった感じ。普通に見えてどこか感情が欠落した兄弟が、自分勝手な理由で殺人を犯す。怖いというより胸糞悪いです。
『夜歩く者』生島治郎
一番身近な感じのする話。作家の二人が昔死んだはずの女の姿を目撃する。幽霊が出てくる王道の作りになっています。
『蠟人』山田風太郎
山田風太郎らしい、ねっとりとした文体で語られる恐怖小説。気色悪いことこの上ない。江戸川乱歩を彷彿とさせるエログロさには思わず辟易してしまいます。
怖いことに違いはないのだけれど、主人公の人格に問題があるので不快感を伴います。
ああいう女性を強姦するのも気に入らないし、された女性がその男の虜になるというのも意味不明です。そんなことがあるわけがない。
いくら娯楽小説といっても、物語を進めるうえで都合がいいといっても、無理矢理すぎるだろうと思う。それ以外の部分は良くできていて面白いです。
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