青春ミステリ 青崎有吾『早朝始発の殺風景』のあらすじと感想

socyoshihatsu

感想 ★★★☆☆

本格ミステリの若き書き手として人気の青崎有吾の短編集。オムニバス形式で五つの話とエピローグが収録されています。どの話も日常の謎がテーマで、サクサク読めるので幅広い人におすすめできます。
『早朝始発の殺風景』
まだ肌寒さの残る五月の早朝、男子高校生の加藤木は誰も居ないホームで始発列車を待っていた。車内も無人かと思いきや、予想に反して先客が一人いた。しかもそれは、ろくに話したこともないクラスメイトの女子。
二人きりの車内で無視するわけにもいかず、二人は当たり障りのない世間話を始める。そして二人は同じ疑問を抱く。どうしてこんな時間に一人で電車に乗っているのだろう。

それから二人はお互いの事情を探り始める。加藤木はこの女子が〝殺風景〟という変わった苗字であることしか知らない。話をするうちに判明した彼女の事情は、思いもよらないものだった。

『メロンソーダ・ファクトリー』
仲良しトリオの女子高生・真田、詩子、ノギちゃんの三人は、たまり場にしているファミレスでいつものようにお喋りに花を咲かせていた。だが、文化祭のTシャツ作りに話が及ぶと空気が一変する。Tシャツのデザイン案で真田と詩子の意見が対立してしまったのだ。
デザインはA案とB案の二つに絞られていた。B案は真田がデザインしたもので、親友の詩子は絶対賛成してくれると思っていた。なのにどうして。
中立の立場を取るノギちゃんを含め、三人はディスカッションを始める。その結果、詩子の隠された事情が明らかになり、真田はショックを受けるのだった。
『夢の国には観覧車がない』
部活の卒業旅行で遊園地にやってきた年頃の男子高校生・寺脇。本当は意中の人である葛城と一緒に観覧車に乗りたかったのに、何の間違いか後輩の伊鳥と二人で乗る羽目に。部活の最後が男と二人で観覧車では浮かばれない。寺脇がため息を吐きたくなるのも、無理はなかった。
憮然としつつも風景を楽しんでいた寺脇は、伊鳥の行動が不自然だったことに気付く。まるで自分と一緒に観覧車に乗るために、わざとそのような行動をしていたようにも思えてくる。二人きりの今もどこかそわそわした様子だ。はたして伊鳥は何を企んでいるのか。
『捨て猫と兄妹喧嘩』
たまたま通りかかった公園で捨て猫を拾った女子高生は、困ったあげく兄に連絡する。自分の住むマンションでは飼えないため、両親が離婚して今は別々に暮らす兄に助けを求めたのだ。
だが、兄の方にも飼えない事情があり、元いた場所に戻すように説得される。猫に情が移っていた妹はそれを断固拒否。猫の所存を巡って話し合う内に、妹は兄の秘密を見抜くのだった。
『三月四日、午後二時半の密室』
女子校に通うクラス委員の草間は、卒業式を欠席したクラスメイトの元へ卒業証書を届けに行く。欠席した女子の名は煤木戸。彼女は人を寄せ付けない雰囲気がありクラスで浮いていた。孤高の存在である彼女に友達はおらず、草間もろくに話したことがない。
そんな関係ゆえ、部屋に上がって二人きりになると気まずい空気となる。天然でおっちょこちょいの草間と、大人びた煤木戸は対照的な存在だ。それでも草間は何とか話題を見つけ、二人はぽつぽつと言葉を交わす。
実は草間には気になることがあった。煤木戸が卒業式を欠席したのは、本当は仮病ではないのか。学校で孤立しているから、それで病気と嘘をついて休んだのではないか。そんな疑いを持ちつつ接していた草間は、煤木戸の本当の姿を知るのだった。
『エピローグ』
最初の『早朝始発の殺風景』の後日談
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短編ミステリとしてよく出来ている

登場人物はみんな高校生で謎となるのは日常の出来事です。いわゆる日常の謎と呼ばれるジャンル。ゆえに謎となるのはどれも些細な出来事で、驚天動地の謎とトリックというタイプではありません。
各話どれもちゃんと伏線が敷かれており、回収の仕方も上手い。日常の謎系ミステリとして上質です。著者の青崎有吾は長編の館シリーズにおいて、ロジカルミステリを書いており、実力が有るのは確かです。
その力が短編でも発揮されています。そつなくまとまっているし、本格ミステリの楽しさも味わえます。ただミステリとしての難易度は高くない。真相が予想できる人も多いでしょう。
表題作の『早朝始発の殺風景』には意外性があって驚かされました。二人の目的に関しては、正直面白さを感じなかった。加藤木の方はわざわざそんな事をしなくても他に方法があるだろうし、殺風景については現実的な方法と思えない。
それで微妙だなと思っていたところで、意外な要素が出てきてハッとさせられました。何の意味もないと思っていたアレに、まさかそんな意味があったとは。これには驚きました。とても上手いやり方。
『メロンソーダ・ファクトリー』もミステリではお馴染みのアレを、現代的な話に組み込んでいて、へえ、と思いました。内容は微笑ましくて青春っぽさ全快です。

青春小説としても面白い

謎となっているのが、多感な時期である十代特有の心の機微だったりする点が、とても上手。純粋な青春小説としてみても面白いです。普段ミステリを読まない、興味がないという人にもおすすめ。
どの話もそうですが、特に『メロンソーダ・ファクトリー』と『三月四日、午後二時半の密室』が青春らしさを感じられる話になっています。
〝青春は気まずさでできた密室〟と書かれていますが、上手い表現だなあと頻りに頷きました。とても印象に残る表現です。各話はそれが見事に伝わってくる内容になっています。
本書の短編はすべてワンシチュエーションで場面転換がありません。なので、登場人物の会話だけで話を進めなければならず、筆力がないと一気に退屈な話になる。
しかし、そうなっていない上に、その縛りを効果的に使って、〝気まずさでできた密室〟を構築しています。青春ものの短編集として質が高い。

あとがき

不満な点としては最後の『エピローグ』はいらなかったと思う。これは最初の話の後日談ですが、殺風景の目的がどうなったかは、分からないままにしておいた方が良かった気がします。
あの方法で目的に辿り着くのは現実的でなくて、一気に嘘っぽく感じてしまいました。殺風景という変わった苗字も、西尾維新を意識しているような気がして、個人的には好きではない。
上記のような不満点があるにしても、日常の謎系青春ミステリとして満足。サクサク読めるので、ちょっと時間が空いた時などに最適。重い小説を読んだ後や、疲れている時の息抜きにも良いですね。

ほっこりする話が多くて非常に好感度が高い。おすすめです。

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